『ねじまき鳥クロニクル』あらすじ・考察|最高傑作の理由も解説【完全版】

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『ねじまき鳥クロニクル』あらすじ・考察|最高傑作の理由も解説【完全版】

この記事でわかること

物語の基本的な流れと、猫の失踪から妻の救出へと展開する壮大な物語の構造

「涸れた井戸」や「ノモンハン事件」といった、物語の根幹に関わる重要なテーマや象徴

「最高傑作」と「つまらない」という評価に分かれる理由と、作品の難解さ

主人公の岡田亨や敵役の綿谷ノボルなど、物語の鍵を握る主要な登場人物の役割

スパゲッティを茹でていただけの平凡な日常が、一匹の猫の失踪をきっかけに、壮大な神話の世界に迷い込むとしたら?

村上春樹のキャリアにおける記念碑的作品、『ねじまき鳥クロニクル』は、まさにそんな物語です。

「村上春樹の最高傑作」と熱狂的に支持される一方で、「あまりに難解で挫折した」という声も後を絶ちません。

ヨミト
ヨミト

本記事では、『ねじまき鳥クロニクル』の壮大なあらすじを章ごとに徹底解説。

なぜこれほどまでに評価が分かれるのか、そして本作が文学史に燦然と輝く理由を、物語の根幹に触れる深い考察とともに解き明かしていきます。

この記事を読めば、井戸の底で待つ物語の本当の意味が、きっと見えてくるはずです。

※ 本記事では多くのネタバレが含まれます。未読の方はご注意ください。

『ねじまき鳥クロニクル』のあらすじを徹底解説

『ねじまき鳥クロニクル』イメージ画像
イメージ|あらすじノオト

この章では以下の構成で、『ねじまき鳥クロニクル』の世界を読み解いていきます。

  • 『ねじまき鳥クロニクル』の基本情報
  • 大まかなあらすじ【ネタバレなし】
  • 読者の感想まとめ「つまらない」と感じる人も?
  • 物語の鍵を握る主要登場人物【ネタバレあり】
  • 【章別】完全あらすじ解説【ネタバレ注意】

『ねじまき鳥クロニクル』の基本情報

『ねじまき鳥クロニクル』は、世界的な作家・村上春樹さんのキャリアを語る上で欠かせない、記念碑的な長編小説です。

ヨミト
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物語は壮大な全3部で構成されており、村上作品のなかでも特に重要な一作として知られています。

今までの都会的でおしゃれな作風から一歩踏み出し、本作ではじめて「歴史」や「暴力」といった重いテーマに正面から向き合ったからです。

この挑戦的な内容が村上文学の新たな扉を開いたとされ、実際に1996年には第47回読売文学賞を受賞するなど、国内外で非常に高い評価を得ています。

『ねじまき鳥クロニクル』出版履歴

物語は、以下の3つのパートを旅するように展開されます。

単行本刊行日文庫版刊行日
第1部泥棒かささぎ編1994年4月12日1997年9月30日
第2部予言する鳥編1994年4月12日1997年9月30日
第3部鳥刺し男編1995年8月25日1997年9月30日

1994年から1995年にかけて刊行された本作は、現在、手に取りやすい文庫本3冊で読むことができます。

かなりのボリュームがあるので、じっくりと時間をかけて向き合うのがおすすめです。

以上のように、本作は村上春樹さんの世界を深く味わうための入り口であり、同時に彼の文学の奥深さを知るための重要な作品といえるでしょう。

大まかなあらすじ【ネタバレなし】

単語帳に「あらすじ」の文字が印字

本物語はスパゲッティを茹でるようなごく平凡な日常が、一匹の猫の失踪をきっかけに、少しずつ不思議な世界へと迷い込んでいく様子を描いています。

それはやがて行方不明になった妻を取り戻すための探索となり、さらには歴史の暗闇や自分自身の存在意義を問う、壮大な旅へと繋がっていきます。

物語の主人公は、法律事務所を辞め、主夫として静かな日々を送る30歳の岡田亨(おかだとおる)です。

ある日、妻のクミコに頼まれ、名前が義兄と同じ「ワタヤノボル」という飼い猫の捜索を始めます。

しかしこの猫探しをきっかけに、彼のまわりでは次々と奇妙な出来事が起こり始めます。

こちらのすべてを知っているかのような謎の女からの電話、水を媒体にするという不思議な占い師の姉妹、そして死について達観した言葉を語る近所の女子高生との出会い。

これらの出来事が、亨を少しずつ非日常の世界へと誘い、物語は大きく動き出します。

日常の崩壊、そして妻の失踪

そして決定的なことに、妻のクミコまでもが忽然と姿を消してしまうのです。

妻はいったいどこへ行ったのか。その謎を追う中で、彼は近所の空き家にある「涸れた井戸」の存在を知ります。

この井戸は、彼が自らの内面へと深く潜っていくための、重要な通路となっていくのでした。

以上のように、本作は日常の小さな亀裂から始まり、読者自身の日常の見え方をも変えてしまうかもしれない、深く引き込まれる物語となっています。

読者の感想まとめ「つまらない」と感じる人も?

「評価」という文字を虫眼鏡で見ている

『ねじまき鳥クロニクル』は「最高傑作」という評価を受けると同時に、「途中で挫折した」「つまらない」という声が聞かれるのも、本作品の大きな特徴です。

もしあなたが読んでいて「少し難しいかも…」と感じたとしても、それは決して不思議なことではありません。その理由には、本作が持ついくつかの性質が関係しています。

読者が直面する3つの「壁」

多くの方が最初に戸惑うのは、物語の長さと展開の遅さかもしれません。

文庫本で3冊に及ぶ長大な物語であり、主人公がただ人を眺めたり、妻や猫がいなくなってもどこか淡々としているように見えたりします。

そのため「話がなかなか進まない」、と感じてしまうことがあるのです。

ヨミト
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次に壁となるのが、説明のない不思議な展開でしょう。

主人公がなぜか近所の井戸の底に潜ったり、夢か現実かわからない抽象的な場面が続いたりします。そのため「一体何の話なんだろう?」と混乱してしまう読者も少なくありません。

さらに作中では、ノモンハン事件における「皮剥ぎ」の場面など、非常に残酷で生々しい暴力の描写も出てきます。このような描写が苦手で、読むのが辛くなってしまうという感想も見られます。

困難の先にあるカタルシス

以上のように、次の3つの壁が読者を選んだり、「つまらない」と感じさせたりする要因となっています

  • 作品の長さ
  • 難解さ
  • 衝撃的な描写

しかし多くの読者が、「第3部から一気に面白くなった」と語っているのも事実です。

序盤では断片的に思えた数々のエピソードが繋がり始め、物語の壮大な全体像が見えてきたときの感動は格別でしょう。

もし途中で難しさを感じても、もう少しだけ読み進めてみることをお勧めします。その先に本作が、「最高傑作」と呼ばれる理由が待っているかもしれません。

物語の鍵を握る主要登場人物【ネタバレあり】

たくさんの人物のフィギアの画像(登場人物のイメージ)

ここでは物語の核心に触れる主要な登場人物を紹介します。

あらすじをより深く理解する助けになりますが、ネタバレを含みますのでご注意ください。

僕(岡田 亨 おかだとおる)

主人公であり、物語の語り手です。法律事務所を辞めた30歳の無職の男性で、失踪した妻のクミコを取り戻すため、日常の裏側に広がる不思議な世界へと足を踏み入れていきます。

クミコ(岡田 久美子 おかだくみこ)

主人公の妻で雑誌編集者。物語の序盤で、飼い猫に続いて彼女自身も突然姿を消します。

クミコの失踪の背景には、兄である綿谷ノボルとの複雑な関係や、彼女自身の心の闇が深く関わっています。

綿谷 ノボル(わたや のぼる)

クミコの兄であり、本作における「悪」を象徴する存在です。

著名な経済学者から政治家に転身し、カリスマ性を持つ一方で、人々を精神的に支配する特殊な力を持っています。主人公の最大の敵として立ちはだかります。

笠原 メイ(かさはら めい)

主人公の家の近所に住む16歳の少女。バイク事故をきっかけに不登校になっています。

どこか達観した不思議な雰囲気があり、「死」について独自の考えを語ります。主人公にとって重要な対話相手となる存在です。

加納マルタ/クレタ(かのう・まるた/くれた)

不思議な力を持つ占い師の姉妹です。

妹のクレタは、過去に綿谷ノボルによって精神的に「汚された」経験があり、その関係から主人公に協力することになります。主人公を異世界へと導く、案内人のような役割を担います。

間宮 中尉(まみや ちゅうい)

ノモンハン事件を生き延びた元軍人です。

彼が語る戦争の壮絶な体験談は、物語に「歴史的な暴力」という重いテーマをもたらします。そして主人公が立ち向かうことになる、「悪」の本質と深く繋がっていきます。

牛河(うしかわ)

綿谷ノボルのために働き、裏の仕事を担当する不気味な見た目の男です。主人公の前に現れては、不穏な動きを見せます。後の村上作品『1Q84』にも登場することで知られています。

【章別】完全あらすじ解説【ネタバレ注意】

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イメージ|あらすじノオト

※ ここから先は物語の結末に触れるため、まだ読み終えていない方はご注意ください。物語は全3部で構成されています。

第1部 泥棒かささぎ編

物語は法律事務所を辞め主夫として暮らす、主人公・岡田亨の平凡な日常から始まります。

しかし謎の女からの電話や、飼い猫「ワタヤノボル」の失踪をきっかけに、彼の日常は少しずつ歪み始めます。

妻クミコに頼まれて猫を探すうちに、近所に住む不思議な少女・笠原メイや、占い師の加納マルタ・クレタ姉妹といった奇妙な人物たちと出会うのです。

そしてついに、妻のクミコまでもが突然姿を消してしまい、物語は本格的に動き出します。

第2部 予言する鳥編

失踪した妻を探すなかで、岡田亨はさらに不可思議な世界へと足を踏み入れていきます。

亨はノモンハン事件の生き残りである間宮中尉と出会います。そして戦争の凄惨な体験談、特に生きたまま人間の皮を剥ぐ「皮剥ぎ」という、壮絶な話を聞かされるのです。

また近所の空き家にある、「涸れた井戸」の底に降りて思索にふけるようになり、そこで現実とは異なる精神世界へ「壁抜け」する不思議な体験をします。

この体験を境に亨の頬には青いあざが現れ、妻の失踪の背後に義兄・綿谷ノボルの邪悪な存在があることを確信するのです。

第3部 鳥刺し男編

物語は完結へと向かいます。井戸での体験を通じて不思議な力を得た岡田亨は、綿谷ノボルとの対決を決意します。

亨は赤坂ナツメグ・シナモン親子といった協力者を得て、本格的にクミコの救出に乗り出すのです。

そして精神世界の中にあるホテルの一室で、綿谷ノボルを象徴する「悪」の化身と対峙し、野球バットで打ちのめします。

これと連動するように、現実世界の綿谷ノボルは講演中に倒れ意識不明となりました。

最終的にクミコからの手紙ですべての真相が明かされ、彼女自身の手によって綿谷ノボルの生命維持装置が外されます。

岡田亨は、罪を償う彼女の帰りを待つことになるのでした。

『ねじまき鳥クロニクル』のあらすじと深い考察

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ここからは物語の核心に触れる、次の5つのポイントを深く掘り下げていきます。

  • 考察① 結末とクミコの「最後」が意味するもの
  • 考察② ノモンハン事件と皮剥の象徴性
  • 考察③ 綿谷ノボルの正体と「顔のない」ことの意味
  • 考察④ 本作はなぜ「最高傑作」なのか
  • 考察⑤ 「100分で名著」ではどう解説された?

考察① 結末とクミコの「最後」が意味するもの

本物語の結末は、単純なハッピーエンドとはいえません。

クミコは主人公によって救い出された後、自ら殺人の罪を犯し、すぐには彼の元へ戻らない道を選びます。

ここには悪からの完全な解放と、個人の尊厳の回復というテーマが込められていると考えられます。

支配からの解放と主体性の回復

クミコが兄である、綿谷ノボルの生命維持装置を外すという「最後」の行動に出たのは、彼による長年の精神的な支配から完全に自由になるためでした。

物語を通じて、クミコは兄によって心の闇をこじ開けられ、その結果、罪の意識に苛まれてきたことが明かされます。

ヨミト
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亨が精神世界で「悪」の核を打ち砕いただけでは、クミコの魂は完全には救われなかったのです。

そのため現実世界で自らの手で兄の肉体を葬り去るという具体的な行動が、彼女にとっては呪縛を断ち切るための最後の儀式として必要だったのでしょう。

これは誰かに救われるだけでなく、自分自身の意志で過去を清算するという主体的な決断です。

罪と向き合う「開かれた結末」

そしてクミコは警察に出頭し、法的な罰を受け入れます。

亨がただ彼女の帰りを待つという終わり方は、悪との戦いが終わった後も、個人の罪や責任と向き合うという厳しい現実が続くことを示唆しています。

本当の意味での救済とは、時間をかけて自分自身で達成していくものです。そうした村上春樹さんならではの重いメッセージが、この結末には含まれているのかもしれません。

考察② ノモンハン事件と皮剥の象徴性

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イメージ|あらすじノオト

なぜ失踪した妻を探す物語に、残酷な戦争の話が必要だったのでしょうか。

物語の底を流れる「暴力の地下水脈」

物語の中では「ノモンハン事件」や凄惨な「皮剥ぎ」の場面が唐突に語られるように思えるかもしれません。

しかし「ノモンハン事件」や「皮剥ぎ」は、本作のテーマを理解する上で非常に重要な役割を持っています。

これらは単なる歴史の紹介ではなく、物語の底に流れる「巨大で理不尽な暴力の地下水脈」を象徴する装置なのです。

ヨミト
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村上春樹さんは本作品で初めて、個人の物語と日本の戦争という歴史的な出来事を本格的に結びつけました。

間宮中尉が体験した暴力と、主人公が現代で対峙する綿谷ノボルの暴力は、時代や形は違えど、同じ根を持つ「悪」として描かれています。

二種類の暴力と綿谷ノボルの悪

具体的にノモンハン事件は、日本軍指導部の無責任な作戦によって、兵士たちが「名もなき消耗品」として無意味に死んでいった戦いとして語られます。

これは組織や国家という「顔のないシステム」が、個人の命や尊厳を踏みにじる冷たい暴力の象徴です。

一方で間宮中尉が目撃する「皮剥ぎ」の場面は、より個人的で純粋な悪意と加虐性の極致を表現しています。

「優れた料理と同じ」とまで語られるその行為は、単なる殺害ではなく、人間の尊厳を根こそぎ破壊する儀式のようです。

この2種類の暴力は、主人公の敵である綿谷ノボルの中に同居しています。綿谷ノボルはシステムを巧みに利用し、同時に個人的な悪意で人を支配するのです。

ヨミト
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つまり亨が綿谷ノボルと戦うことは、過去の歴史的な暴力とも向き合うことを意味します。

ノモンハンの記憶は、井戸や無意識の世界を通じて「壁を抜け」、現代にまで影響を及ぼす生々しい力として機能しているといえるでしょう。

考察③ 綿谷ノボルの正体と「顔のない」ことの意味

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綿谷ノボルは、単なる主人公の嫌な義兄というだけではありません。

本物語における「根源的な悪」を体現する、非常に重要な存在として描かれています。

彼の本当の正体は、実体を持たない空虚さや、人々を巧みに操るシステムの象徴です。そしてその本質が、「顔のない」というキーワードと深く結びついています。

実体のない「システムの悪」

綿谷ノボルは、自らの手で直接的な暴力をふるうことはほとんどありません。

その代わりに、巧みな言葉や見えない力を使い、妻クミコや加納クレタといった人々の心の中に潜む闇を巧みに引き出し、精神的に支配します。

カリスマ的な言動でメディアの人気者となり、政治家としても成功しますが、その内面は他者への共感を欠いた、いわば空っぽな状態です。

これは現代社会にはびこる、中身のない言葉で大衆を扇動するような「システムの悪」を象徴していると解釈できます。

主人公との対比と「顔のない男」

また主人公の岡田亨が、井戸の底という物理的な暗闇に潜り、自分自身と深く向き合うのとは対照的です。

綿谷ノボルは常に社会的な仮面を被っているようで、その本質は掴めません。

ヨミト
ヨミト

岡田亨と綿谷ノボルは光と闇、内面と外面といった意味で、鏡合わせのような対照的なキャラクターなのです。

ここで興味深いのは、主人公が精神世界で出会う「顔のない男」の存在です。この男は、実は主人公を助ける良心的な案内役として機能します。

立派な社会的「顔」を持ちながら内面が空虚な綿谷ノボルとは対照的に、この「顔のない男」こそが、真の意味で主人公の味方となるのです。

この巧みな対比を通じて、外見や社会的地位だけでは測れない、人間の本質とは何かという問いが、読者に投げかけられているといえるでしょう。

考察④ 本作はなぜ「最高傑作」なのか

「POINT」と書かれたホワイトボートを両手で持っている

なぜこの長大で難解な物語が、村上春樹さんの「最高傑作」と呼ばれるのでしょうか。

個人の物語と歴史の交差

それはひとりの男の個人的な喪失の物語が、壮大な叙事詩へと変貌を遂げる点にあります。いつしか日本の歴史が抱える「暴力」の記憶と対峙する、その圧倒的なスケール感が魅力なのです。

本物語は単に失踪した妻を探すだけの話にとどまりません。

主人公が謎を追う過程で、日本の近代史が抱えるノモンハン事件のような暴力の記憶にも向き合うことになります。

この個人的な探索と歴史的なテーマが深く重なり合う構造が、物語に類まれな奥行きを与えているのです。

「当事者」への変化と物語の構造

村上春樹さん自身も語るように、本作品は社会から距離を置く姿勢から、より深く現実に関わっていく姿勢への転換点となりました。

ヨミト
ヨミト

主人公の岡田亨は、過去の村上作品の主人公たちと異なり、単なるクールな傍観者でいることをやめます。

彼は自らの意志で「井戸」に降り、「バット」を手に取り、悪と対決する「当事者」へと変わっていくのです。

この主体的な姿勢が、物語に強い緊迫感と感動を生み出しています。

響き合う「年代記(クロニクル)」の構造

また主人公の現実の物語だけでなく、様々な物語が複雑に絡み合います。

間宮中尉の戦争体験や赤坂ナツメグ・シナモン親子の話など、これらの断片的な物語が響き合い、読者の頭の中でひとつの壮大な年代記(クロニクル)を形成していく様は圧巻です。

個人の魂の救済は、歴史の闇と向き合うことでしか成し遂げられないという普遍的なテーマを描ききった点。

これこそ本作が今なお色褪せることなく、「最高傑作」として屹立する大きな理由といえるでしょう。

考察⑤ 「100分で名著」ではどう解説された?

人差し指(チェックのイメージ)

NHKの番組「100分de名著」での解説は、この難解で長大な物語を読み解くための、絶好の道しるべとなります。

村上文学の転換点「コミットメント」へ

番組では本作を、村上春樹さんのキャリアにおける大きな転換点だと位置づけています。そして現代社会を生きる私たちへの、深い問いを投げかける作品であると紹介していました。

解説者の沼野充義さんによると、本作品はそれまでの都会的でおしゃれな初期作品から一歩踏み出した点で非常に重要です。

戦争のような巨大な悪や歴史的な暴力といった、より深く現実的なテーマを初めて本格的に扱っています。

村上春樹さん自身の言葉が引用され、「デタッチメント(関わらないこと)からコミットメント(関わること)へ」という変化が、本作品ではっきりと示されていると特に強調されていました。

これまでの主人公とは違い、岡田亨は傍観者でいることをやめ、自らの意志で現実の問題に関わり、悪と戦うことを決意するのです。

善悪の境界と「閉じない小説」

また本物語は単純な勧善懲悪ではない点も指摘されました。

主人公の亨が悪と戦う過程で、彼自身も「バット」という暴力の象徴を手にし、手を汚さざるを得なくなります。

ヨミト
ヨミト

番組では、哲学者ニーチェの「怪物と戦う者は、自らも怪物になる危険がある」という言葉を引用しています。

そして善と悪の境界が曖昧になる現代の複雑な現実を、本作が鋭く描いていると解説しました。

答えを読者に委ねる

物語の結末ですべての謎が解決されるわけではない点を「閉じない小説」と表現しているのも特徴です。

これは世界は簡単な答えで割り切れるものではなく、私たち自身が考え続けなければならないという、読者への積極的なメッセージだと読み解きます。

以上のように番組では、本作を単なる不思議な物語としてではなく、現実社会と深く関わる作品として光を当てていました。

答えのない問いを私たちに投げかける、村上文学の新たなステージを象徴する作品だということです。

『ねじまき鳥クロニクル』に関するQ&A

「Q&A」と印字された木のブロック

Q1. 結局、物語はハッピーエンドですか?

A1. 一言でハッピーエンドともバッドエンドとも言えない、「開かれた結末」になっています。

主人公は最大の敵である綿谷ノボルとの戦いにひとつの決着をつけ、妻のクミコも彼の精神的な支配から解放されます。

しかしクミコは、自らの手で兄の生命維持装置を外すという罪を償うために警察に出頭するため、ふたりがすぐに再会することはありません。

物語の最後では、呪われた家の井戸に水が戻るなど希望を象徴する描写もあります。

ですがクミコがいつ戻ってくるのか、ふたりの未来がどうなるのかは読者の想像に委ねられています。

悪との戦いが終わっても現実的な問題は残り続けます。単純ではないけれど希望も残された、非常に考えさせられる終わり方といえるでしょう。

Q2. 村上春樹の他の作品と繋がりはありますか?

A2. はい、いくつかの登場人物や設定が他の作品とリンクしており、ファンにとっては興味深い繋がりが見られます。

例えば、本作で綿谷ノボルのために働く不気味な男「牛河」は、後の大長編『1Q84』でより重要な役割を担って再登場します。

また不思議な能力を持つ「加納クレタ」は、短編集『TVピープル』に収録された同名の短編が初出のキャラクターです。

さらに物語の冒頭部分は、短編集『パン屋再襲撃』収録の「ねじまき鳥と火曜日の女たち」が原型です。

また本作の執筆過程で削られた要素が、『国境の南、太陽の西』という別の長編小説になったともいわれています。

もちろん、本作単体で完結した物語として楽しむことができます。

Q3. これから読むなら単行本と文庫版、どっちがおすすめ?

A3. これから初めて読むのであれば、現在もっとも手に入りやすく、持ち運びにも便利な「文庫版」がおすすめです。

文庫版は全3巻に分かれているため、長大な物語を自分のペースで読み進めることができます。また、2010年には文字が大きくなった新装版も刊行されており、より読みやすくなっています。

ヨミト
ヨミト

もちろん、初版のデザインにこだわりたい方は古書店などで単行本を探すのも良いでしょう。

電子書籍版(合本版あり)や、俳優の藤木直人さんが朗読するオーディオブック版もあります。ご自身の読書スタイルに合わせて選ぶのが一番ですが、手軽さでいえば文庫版が良いでしょう。

Q4. 「仮縫い」や「山本」は結局何だったのですか?

A4. 「仮縫い」や情報将校の「山本」といった要素は、物語のテーマを象徴するための重要なパーツですが、その正体が明確に説明されることはありません。

村上作品では、多くの謎が読者の解釈に委ねられることが特徴です。

これらの要素も物語の論理的な説明のためというよりは、作品世界の奥深さやテーマ性を豊かにするために配置されていると考えるのが自然でしょう。

「山本」と「仮縫い」が象徴するもの

「山本」は間宮中尉に戦争の理不尽な暴力を体験させ、その記憶を主人公に伝えるきっかけとなる存在です。

一方「仮縫い」は、赤坂ナツメグが行うスピリチュアルな治療行為で、人々が抱える見えない心の傷や病を象徴しています。

主人公がこの仕事を引き継ぐことは、彼が他者の内面と深く関わる存在へと変化していく過程を示しているのです。

これらの要素が「何だったのか」という問いに、唯一の正解はありません。物語全体の中からその役割を読み解いていくこと自体が、この小説の楽しみ方のひとつといえるでしょう。

『ねじまき鳥クロニクル』あらすじとポイントまとめ

黒板に「まとめ」の文字

『ねじまき鳥クロニクル』は、単なる物語ではありません。

それは、日常の裏に潜む歴史の闇と向き合い、答えのない問いを自らに課す「体験」です。この記事を通じて、あなたが井戸の底に降りていくための、確かな地図を手にできたなら幸いです。

それでは最後にポイントを箇条書きでまとめます。

  • 平凡な日常が猫の失踪を機に不思議な世界へと迷い込む物語
  • 主人公は30歳の無職の男性、岡田亨
  • 妻クミコの失踪をきっかけに壮大な旅が始まる
  • 物語の鍵を握るのは「涸れた井戸」
  • 歴史や暴力といった重いテーマを扱っている
  • 読者からは「最高傑’作」と「つまらない」という両極端の感想がある
  • 物語の長さや難解さ、衝撃的な描写が読者を選ぶ要因となっている
  • 第3部から物語が大きく動き出し、伏線が回収されていく
  • 主要登場人物には、妻のクミコ、その兄の綿谷ノボル、女子高生の笠原メイなどがいる
  • 綿谷ノボルは物語における「悪」の象徴である
  • ノモンハン事件や「皮剥ぎ」の描写は、物語の根底に流れる暴力を象徴している
  • 結末はハッピーエンドともバッドエンドとも言えない「開かれた結末」である
  • 『1Q84』に登場する牛河など、他の村上作品とのリンクが見られる
  • これから読むなら手に入りやすい文庫版がおすすめである

最後までお読みいただき、ありがとうございました。書評ブロガーのヨミトがお届けしました。詳しいプロフィールはこちら

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