凪良ゆう『流浪の月』あらすじを徹底解説!「気持ち悪い?」文の病気の真相

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凪良ゆう『流浪の月』あらすじを徹底解説!「気持ち悪い?」文の病気の真相

この記事でわかること

物語の始まりから結末までの詳細なあらすじ

登場人物たちの複雑な関係性と、物語の核心である文の秘密

「事実と真実の違い」など、作品が持つ深いテーマ性やタイトルの意味

原作小説と映画版の物語における違いや、それぞれの魅力

「事実は、本当に“真実”なのでしょうか?」

2020年本屋大賞を受賞した凪良ゆう先生の傑作『流浪の月』は、私たちにそう静かに、しかし強く問いかけます。

世間が名付けた「女児誘拐事件」。その裏側には、「被害者」と「加害者」という単純な言葉では決して語れない、ふたりだけの切ない物語がありました。

なぜふたりは出会い、引き裂かれ、そして再び求めてしまったのか。

ヨミト
ヨミト

本記事では、小説『流浪の月』のあらすじを結末まで徹底的に解説します。

物語の核心である文の秘密、原作と映画の決定的な違い、そして多くの人が「気持ち悪い」と感じてしまう理由まで、あなたの全ての疑問に答える、決定版ガイドです

小説『流浪の月』のあらすじと核心を解説

この章では、まず『流浪の月』がどのような物語なのか、その全体像を掴むために、次の内容を取り上げます。物語の結末にも触れるため、未読の方はご注意ください。

  • 小説『流浪の月』とは?作品の基本情報
  • 主な登場人物を紹介
  • 簡単なあらすじ【ネタバレなし】
  • 全体のあらすじを結末まで解説【ネタバレ】
  • 文が告白した”下半身の秘密”とは?それは「病気」?
  • 象徴的な「ケチャップ」のシーンが意味するもの

小説『流浪の月』とは?作品の基本情報

『流浪の月』は、2020年の本屋大賞で大賞に輝いた、凪良ゆう先生による傑作小説です。

世間から「女児誘拐事件」と見なされた出来事の”被害者”と”加害者”。このふたりの関係性を軸に、社会の「普通」や「正しさ」とは何かを読者に深く問いかけます。

多くの心を掴んだ繊細なテーマ性

本作品が多くの人々の心を掴んだのは、客観的な評価の高さに加え、物語が持つ繊M細なテーマ性にあるでしょう。

著者の凪良ゆう先生は、もともとBL(ボーイズラブ)ジャンルで人間関係を巧みに描いてきた実力派です。

本作でも恋愛や友情といった既存の言葉では名付けられない、魂の結びつきを見事に描き出しました。

作品の基本情報は以下のとおりです。

項目内容
作品名流浪の月
著者凪良ゆう
出版社東京創元社
刊行日単行本:2019年8月30日
文庫版:2022年2月25日
主な受賞歴2020年 本屋大賞 大賞
ページ数320ページ(単行本)
356ページ(文庫版)
映像化2022年5月13日公開 (監督:李相日、主演:広瀬すず、松坂桃李)

『流浪の月』は単なる話題作に留まらない普遍的なテーマを持つ物語です。多くの読者にとって忘れられない一冊となるでしょう。

主な登場人物を紹介

たくさんの人物のフィギアの画像(登場人物のイメージ)

『流浪の月』の物語を深く味わうためには、登場人物たちの理解が欠かせません。

それぞれが複雑な背景と痛みを抱えており、各人物の視点や行動の一つひとつが、物語の多層的なテーマを形作っているからです。

ここでは物語の中心となる4人の人物を紹介します。

物語の中心となる4人

家内 更紗(かない さらさ)

本作の主人公で、10歳のときに文と出会います。

家庭に居場所を見いだせず孤独を抱えていましたが、文と過ごした2ヶ月間を「救い」だと感じています。

しかし世間からは、「傷物にされた可哀想な被害者」というレッテルを貼られ、そのギャップに苦しみ続けることになります。

佐伯 文(さえき ふみ)

もうひとりの主人公です。

19歳のときに公園で更紗と出会い、自宅へ招き入れます。

世間からは「ロリコンの誘拐犯」と見なされていますが、実際は誰にもいえない身体的な秘密を抱えていました。そのため他者との深い関係を築けずに生きてきたのです。

中瀬 亮(なかせ りょう)

大人になった更紗の恋人です。更紗の過去を知った上で「守ってあげたい」と考えています。

しかしその思いは、次第に歪んだ支配欲へと変わり、更紗を精神的、肉体的に追い詰めていくことになりました。

谷 あゆみ(たに あゆみ)

大人になった文の恋人です。

多くを語らない文の心の内を理解できず、苦しんでいます。更紗が再び文の前に現れたことで、強い警戒心を抱きます。

登場人物一人ひとりが抱える孤独や葛藤を知ることで、『流浪の月』のあらすじが、より切実で立体的な物語として心に響いてくるはずです。

簡単なあらすじ【ネタバレなし】

単語帳に「あらすじ」の文字が印字

『流浪の月』は、社会から重い烙印を押されたふたりが、15年のときを経て再会するところから始まる、切ない絆の物語です。

しかし「誘拐犯」と「被害女児」とされたふたりの出会いは、世間が思うような単純なものではありませんでした。

ふたりの出会いと「事件」

物語の始まりは、9歳の少女・家内更紗が心に深い孤独を抱えていた頃に遡ります。

両親を失い、引き取られた親戚の家にも安らげる場所を見つけられずにいた彼女。雨の降る公園でひとり佇む更紗に、19歳の大学生・佐伯文が静かに傘を差し伸べたのでした。

ヨミト
ヨミト

文の部屋で始まった2ヶ月間の暮らしは、更紗にとって生まれて初めて心から安らげる時間となります。

ただ、この穏やかで満たされたふたりの関係は、世間から「女児誘拐事件」として断罪されてしまうのです。

文は逮捕され、更紗は”かわいそうな被害者”として保護され、ふたりは無慈悲に引き裂かれます。

15年後の再会

それから15年の歳月が流れます。

それぞれの人生を歩んでいたはずのふたりは、ある日、街の片隅で偶然にも再会を果たしました。この再会が、止まっていた彼らの運命を再び大きく動かしていくことになります。

世間から貼られたレッテルを背負ったまま、ふたりはどのような未来を選ぶのでしょうか。

ここから物語はさらに深く展開していきます。

全体のあらすじを結末まで解説【ネタバレ】

『流浪の月』イメージ画像
イメージ|あらすじノオト

ここでは小説『流浪の月』の物語の核心に触れながら、結末までの流れを解説します。まだ作品を読んでいない方はご注意ください。

出会いと「事件」- 孤独なふたりが見つけた安らぎ

9歳の少女・更紗は、親戚の家で従兄から性的ないたずらを受け、心から安らげる場所を失っていました。そんな彼女に公園で声をかけたのが、同じく孤独を抱える19歳の大学生・文です。

文の家で過ごした2ヶ月の暮らしは、更紗にとって初めて恐怖から解放された時間となりました。

「夕飯にアイスを食べる」ような、ささやかで自由な毎日を取り戻します。しかしこの穏やかな日々は、「誘拐事件」として世間に断罪されてしまいました。

ヨミト
ヨミト

泣き叫ぶ更紗の意志に反して、ふたりは「加害者」と「被害者」として引き裂かれます。

15年後の再会 – 消えない烙印と歪む日常

15年後、ふたりは偶然再会を果たします。

更紗は、彼女を「かわいそうな被害者」として扱う恋人・亮の歪んだ支配欲に苦しんでいました。

過去を共有する文と再び心を通わせますが、これが亮の激しい嫉妬を招きます。そしてネットへの暴露や暴力へと発展し、更紗は亮の元を逃げ出すのです。

結末 – ふたりが見つけた”本当の居場所”

やがてふたりの関係は週刊誌に報じられ、生活は完全に破壊されます。

追い詰められた文は、自身が「ロリコン」ではないことを告白しました。第二次性徴が訪れない身体的な病を抱え、誰とも性的に繋がれないという絶望が、彼の真実だったのです。

ヨミト
ヨミト

すべてを受け止めた更紗は、文とふたりだけで生きていくことを決意します。

物語の最終章は5年後。

ふたりは過去を知られては移り住む「流浪」の生活を送りながらも、唯一の理解者となった少女・梨花と穏やかな時間を過ごす様子が描かれます。

各人の関係には名前がありません。ただ、穏やかで、確かな絆がそこにありました。

物語は、「どこへ流れていこうと、ぼくはもう、ひとりではないのだから」という文のモノローグで幕を閉じます。ふたりが互いの存在そのものを「本当の居場所」として見出したことが示されるのです。

文が告白した”下半身の秘密”とは?それは「病気」?

『流浪の月』イメージ画像2
イメージ|あらすじノオト

物語の終盤で文が打ち明けた「下半身の秘密」。それは単なる謎解きではなく、物語全体の見方を根底から覆す、もっとも重要な転換点です。

文の告白は、彼が「ロリコン(小児性愛者)」という世間の認識が、まったくの誤解であったことを明らかにします。それは身体的な病気に関するものでした。

文を苦しめた病気の正体

文の苦しみの根源は、第二次性徴が正常に訪れないという病気にありました。作中の描写には、以下のような特徴が見られます。

  • 声変わりが起きない
  • 体毛が薄い
  • 身長は高いが体つきは華奢
  • 性器が子供のまま発達しない

これらの特徴から、読者の間では医学的に「性腺機能低下症」やその一種である「カルマン症候群」ではないかと考察されています。

この病気のため、文は同年代の異性と対等な関係を築けず、恋愛や性愛という世界から完全に取り残されていました。

文にとって大人の女性は、自分が持ち得なかった「成熟」の象徴であり、劣等感を刺激される恐怖の対象だったのです。

だからこそ、彼はまだ性的な存在ではない子どもたちに安らぎを感じていました。それは性的な嗜好ではなく、自身の欠陥を意識せずにいられる唯一の安全な場所だったからです。

母親から「ハズレの木」のように扱われた過去も、文の心を深く傷つけていました。

告白が意味するもの

この誰にも言えなかった真実は、週刊誌の報道によって文が精神的に限界まで追い詰められた末に、ようやく更紗へ明かされます。この告白は物語のすべてを再定義しました。

文の最初の行動は、性的欲求からではありません。自分と同じ孤独を抱える更紗に、自分自身を重ね合わせた魂の叫びだったのです。

文の秘密は、社会が貼ったレッテルがいかに一面的なものであるかを突きつけます。そして物語の本当のテーマを読者に問いかける、もっとも重要な鍵となっています。

象徴的な「ケチャップ」のシーンが意味するもの

『流浪の月』イメージ画像3
イメージ|あらすじノオト

更紗が文の家で暮らしていた幼少期、彼が更紗の口元についたケチャップを指で拭う場面があります。

この何気ないシーンは、ひとつの行動が更紗と文の視点によってまったく異なる意味を持つ、本作のテーマ性を凝縮した多層的な名場面です。

更紗にとっての「救い」

まず、親戚の家で安心感を奪われていた更紗にとって、文の優しい仕草は亡き父を思わせる無条件の優しさでした。

それは彼女の心を解きほぐし、文への絶対的な信頼を抱くきっかけとなります。純粋な救いの瞬間として描かれているのです。

文にとっての「絶望」

一方で文にとってこの行動は、自身の病による「何者でもない」という恐怖から逃れるための、悲痛な自己確認の行為でした。

ヨミト
ヨミト

大人の女性を愛せない文は、「せめて自分は小児性愛者なのではないか」と思い込もうとします。

更紗の唇に触れることで性的欲求が湧けば、自分は少なくとも「小児性愛者」という名前のある存在になれるかもしれない。そんな絶望的な期待を抱いていたのです。

しかし実際に触れても文の心は動かず、その希望は打ち砕かれます。この瞬間彼は、「小児性愛者」にすらなれない、完全な欠陥品であると、さらなる孤独に突き落とされました。

同じ行為、異なる真実

以上のように、同じひとつの行為が更紗にとっては「無垢な信頼の始まり」を、文にとっては「自己を定義しようとする試みと絶望」を意味していました。

この痛々しいまでのすれ違いこそが、言葉では説明できないふたりの関係性の原点であり、物語全体のテーマを象徴しているのです。

流浪の月』あらすじから深掘るテーマと関連情報

『流浪の月』イメージ画像4
イメージ|あらすじノオト

物語のあらすじを理解した上で、ここからはさらに一歩踏み込みます。次の構成順にて、『流浪の月』をより深く味わうための情報をお届けします。

  • 『流浪の月』のテーマとタイトルの意味
  • 小説を読んだ読者の感想まとめ
  • なぜ本作は「気持ち悪い」と感じる人がいるのか
  • 原作小説と映画の違いを徹底比較
  • 「本当にやってる?」と噂の気まずいシーンについて
  • 文の”下半身”の表現は?特殊メイクは使われた?
  • 『流浪の月』はどこでお得に読める・見られる?
  • 『流浪の月』に関するよくある質問(Q&A)

『流浪の月』のテーマとタイトルの意味

本物語の根底には、「事実と真実は違う」という大きなテーマが存在します。そして作品のタイトルである『流浪の月』は、このテーマと主人公ふたりの関係性を見事に象徴しているのです。

テーマ|事実と真実の乖離

本作で繰り返し描かれるのは、世間が認識する「事実」と、当事者だけが知る「真実」との間にある深い溝です。

周囲の人々は、更紗を「かわいそうな被害者」として扱い、「善意」から手を差し伸べます。

しかしその善意は、更紗が体験した「真実」とは異なるため、かえって彼女を深く傷つける刃となってしまうのでした。

この中心的なテーマを理解した上で、タイトルを「流浪」と「月」のふたつの言葉に分けて考えてみましょう。

タイトルの意味

流浪(るろう)

「住む場所を定めず、さまよい歩くこと」を意味します。

これは世間から逃れるように、安住の地を求めて各地を転々とする、物語の結末のふたりの姿そのものです。

また社会に決して受け入れられず、常に居場所を探し続けるふたりの魂の状態も表しています。

月(つき)

月は地球から見ると常に同じ面しか見えません。

光り輝く表面(事実)の裏側には、決して見ることのできない暗い部分(真実)が存在します。

ヨミト
ヨミト

作中にも「事実と真実の間には、月と地球ほどの隔たりがある」という印象的な言葉が出てきます。

つまり「月」とは、世間からは決して本当の姿を理解されない、更紗と文自身の象徴なのです。

さまよい続けるふたりが、世間からは見えない真実を共有しながら、互いだけを頼りに生きていく。

このように『流浪の月』というタイトルは、まさにこの物語の本質を美しく表現しているといえるでしょう。

小説を読んだ読者の感想まとめ

「評価」という文字を虫眼鏡で見ている

2020年の本屋大賞受賞作である『流浪の月』は、多くの読者から絶賛の声が寄せられる一方で、その重いテーマから様々な意見が交わされています。

肯定的な感想

まず肯定的な感想として、もっとも多く見られるのが、「事実と真実の違いを考えさせられた」という声です。

世間の常識や一方的な視点がいかに危ういものであるかを、物語を通して痛感したという意見が目立ちます。

また凪良ゆう先生の「静かで美しい文章」が、登場人物の繊細な心の動きを見事に表現していると高く評価されています。

加えて、「生きづらさを感じている自分にとって、味方になってくれるような作品だった」という共感の声も少なくありません。

社会の”普通”に馴染めないと感じる人々にとって、更紗と文の関係性はひとつの救いとして受け止められているようです。

否定的な感想

一方、否定的な感想がないわけではありません。

物語の設定上、「どうしても気持ち悪いという感情が拭えなかった」という正直な意見も見受けられます。

また一部の読者からは、「主人公たちの行動に共感しにくい」「文の病気という設定が物語の言い訳のように感じられた」といった厳しい指摘も上がっています。

このように、『流浪の月』は読む人によって様々な感情を呼び起こす作品です。

しかし多くの人の心に深く残り、議論を巻き起こす力を持っていることこそが、本作が傑作であることの証明なのかもしれません。

なぜ本作は「気持ち悪い」と感じる人がいるのか

「考察」の文字とノート

『流浪の月』が一部の読者から「気持ち悪い」という感想を抱かれるのは、この物語が意図的に社会の倫理観や道徳観を揺さぶる、きわどいテーマを扱っているからです。

読者が抱く不快感や戸惑いの背景には、主に3つの理由が考えられます。

理由① 社会的なタブーに触れる設定

1つ目は、物語の導入が社会的なタブーに触れている点です。

19歳の大学生が9歳の少女を自宅に招き入れるという設定は、現実の痛ましい事件を強く想起させます。

そのため、物語が描こうとするふたりの純粋な「真実」に触れる前に、多くの読者がまず生理的な嫌悪感や警戒心を抱いてしまうのは、自然な反応といえるでしょう。

理由② 単純な善悪で割り切れない世界観

2つ目に、物語が単純な善悪二元論を徹底して拒否している点が挙げられます。

更紗を苦しめる恋人・亮の暴力は明確な悪です。しかし更紗を守ろうとする、警察や周囲の人々の「善意」もまた、結果的にふたりを追い詰める暴力として描かれます。

このように何が正しくて何が間違っているのか、簡単には判断できない曖昧な世界観は、読者に居心地の悪さを感じさせることがあります。

理由③ 物語の核心である「病気」という設定

そしてもう1つ、より本質的な点として、物語の核心である文の「病気」という設定への評価が分かれることです。

文が小児性愛者ではなく、病気の苦しみゆえに行動したという結末を、一部の読者は「物語の言い訳」のように感じています。

もし文が本当に小児性愛の葛藤を抱えながらも更紗を守る選択をしたのなら、より深い物語になったのではないか、という厳しい意見です。

この「どんでん返し」が、人によってはご都合主義的に映ってしまうのです。

このように、物語が読者の持つ常識や価値観に鋭く切り込み、安易な答えを与えないからこそ、「気持ち悪い」という強い感情を引き起こすのかもしれません。

原作小説と映画の違いを徹底比較

映画『流浪の月』は原作の持つテーマを大切に描いています。しかし約2時間半という上映時間に物語を収めるため、小説とはいくつかの点で異なる表現がされています。原

作を読んだ方が映画を観る、あるいはその逆の場合、両者の違いを知っておくと、より深く物語を味わえるでしょう。

主な違いは、以下の5つのポイントにまとめられます。

1. 物語の構成

小説は更紗の子ども時代から始まり、時系列に沿って物語が進みます。一方、映画では大人になった現在の更紗と過去の出来事が交互に描かれ、少しずつ謎が明かされていく構成です。

2. 更紗の人物像

小説では、更紗が自由奔放な両親のもとで過ごした幸せな幼少期が丁寧に描かれます。この背景があることで、彼女の持つ芯の強さや「自由の象徴」としての一面が際立ちました。

映画ではこの部分が省略されているため、より物静かで憂いを帯びた人物として映ります。

3. 一部の登場人物の設定

文の恋人である谷あゆみは、原作では心療内科で出会った患者ですが、映画では看護師に変更されています。

また更紗の恋人・亮の結末も、原作と映画では少し異なる後味の残る描かれ方をしています。

4. 物語のラスト

原作には、物語の5年後を描いたエピローグが存在します。

成長した梨花がふたりの良き理解者となる、希望を感じさせる締めくくりです。

映画ではこのエピローグはなく、ふたりだけの世界で生きていくことを選んだ、より静かで余韻を残す結末となっています。

5. ふたりの関係性の描き方

これがもっとも大きな違いかもしれません。

小説ではふたりの関係が恋愛ではない、言葉で名付けられない特別な絆であることが繰り返し強調されます。

対して映画では、情熱的なキスシーンが追加されるなど、より恋愛に近い、切ない愛の物語としての側面が強く表現されています。

以上のように、映画と原作はそれぞれに魅力があります。しかし表現方法や、物語のニュアンスには違いがあるため、両方を見比べることで、作品への理解が一層深まるはずです。

「本当にやってる?」と噂の気まずいシーンについて

『流浪の月』イメージ画像5
イメージ|あらすじノオト

映画『流浪の月』における、更紗と恋人・亮との親密なシーン。

それは観る人が目を背けたくなるほどのリアリティがあり、「本当にやっているのでは?」という声が上がるのも無理はありません。

しかしこれはもちろん実際の行為ではなく、俳優陣の鬼気迫る演技と、李相日監督のリアリティを徹底的に追求した演出によるものです。

シーンの意図と表現

これらのシーンが観る人に強い印象を与えるのは、単なる身体の触れ合いだけでなく、ふたりの間の歪んだ支配関係そのものを生々しく描き出しているからです。

例えば、亮を演じる横浜流星さんは、愛情表現と見せかけながら更紗の自由を奪い、自分の欲求を優先する人物の危うさを見事に体現しています。

ヨミト
ヨミト

有無を言わせない視線や力強い仕草は、観る人に確かな緊張感を与えるでしょう。

一方、更紗を演じる広瀬すずさんは、抵抗できない状況下での虚ろな表情や、身体のかすかなこわばりを通して、心がその場にない状態を巧みに表現しています。

さらに衣服が擦れる音や、息遣いといった生々しい音響効果が、その場の息苦しい空気を強調します。

これにより観客をまるで、その場にいるかのような感覚に引き込むのです。

文との関係性との対比

以上のように一連のシーンは、亮との関係が「支配」であり、更紗にとっては苦痛であることを観客に体感させるためのものです。

これは性的な要素が一切ないにもかかわらず、更紗が心からの安らぎを感じる文との関係とは、まさに対極にあるものとして描かれています。

つまり観客が覚える「気まずさ」や「不快感」は、更紗が感じている精神的な苦痛を共有させるための意図的な演出なのです。

この強烈な対比を通じて、物語の核心である「本当の居場所とは何か」というテーマが、より深く、鮮明に浮かび上がってきます。

文の”下半身”の表現は?特殊メイクは使われた?

『流浪の月』イメージ画像6
イメージ|あらすじノオト

映画のクライマックス、文が更紗にすべてを打ち明けるシーンで映し出される彼の”下半身”。

この忘れられない場面は、俳優の身体を直接映したものではなく、極めて精巧な特殊メイクアップ技術によって表現されました。

リアリティと倫理的配慮

下半身のシーンで視覚的な表現が重要だったのは、文が長年抱えてきた苦しみの根源を、言葉だけでなく「現実」として更紗と観客に伝えるためです。

文の痛みが単なる内面的な悩みではなく、具体的な身体的特徴に起因することを示すことで、「ロリコン」という誤解を一瞬で覆し、彼の孤独の深さを観る者に突きつけます。

俳優の演技を支えた技術

映画の制作関係者によって、この部分が特殊メイクであったことが明かされています。

この技術の採用は、倫理的に俳優を守るだけでなく、松坂桃李さんの演技を最大限に引き出す上でも不可欠でした。

リアルな造形があることで、彼は自身の身体をキャラクターの苦悩の象徴として扱い、ためらいのない、魂のこもった演技に集中できたのです。

カメラアングルで隠したり、CGで処理したりする方法では、このシーンの持つ生々しいまでの切実さは表現できなかったでしょう。

このように、文の下半身の表現に特殊メイクを用いたのは、単なる技術的な選択に留まらない、物語の核心に迫るための重要な芸術的判断でした。

それは観客に衝撃を与え、文という人間のどうしようもない現実を直視させることで、彼の苦悩への深い共感を呼び起こします。

ヨミト
ヨミト

芸術性と倫理的配慮を両立させた、日本映画史に残る名シーンの1つといえるでしょう。

『流浪の月』はどこでお得に読める・見られる?

人差し指(チェックのイメージ)

『流浪の月』は、小説と映画それぞれで楽しむことができ、定額制のサブスクリプションサービスを利用するとお得に体験できる場合があります。

小説(書籍・オーディオブック)

電子書籍・紙の書籍

AmazonのKindleストアやコミックシーモアといった電子書籍ストアで購入できます。

また月額制の読み放題サービス「Kindle Unlimited」の対象になることもあるため、登録中の方は確認してみるのがおすすめです。

もちろん、全国の書店やオンラインストアで単行本や文庫版を購入することも可能です。

オーディオブック

本を「聴く」オーディオブックも人気です。Amazonの「Audible」では、『流浪の月』が配信されています。

Audibleは初回の無料体験で、好きな本を1冊聴ける場合が多いので、お得に始めたい方に適しています。

映画

動画配信サービス

映画版は、複数の動画配信サービスで視聴できます。「U-NEXT」や「Amazonプライム・ビデオ」などでは見放題作品として配信されていることがあります。

これらのサービスは無料お試し期間を設けていることが多く、期間内に視聴することも可能です。

レンタル・購入

上記のサービスのほか、DVDやBlu-rayのレンタル・購入という方法もあります。宅配レンタルサービスの「TSUTAYA DISCAS」に、本作品の扱いがあります。

以上、様々な方法で作品に触れることができます。なお、配信状況は2025年8月時点の情報です。最新の状況は各サービスの公式サイトでご確認ください。

『流浪の月』に関するよくある質問(Q&A)

「Q&A」と印字された木のブロック

Q1. この物語は実話が元ですか?

いいえ、この物語は実話を基にしたものではなく、凪良ゆう先生による創作です。

作者自身がインタビューで語ったところによると、本作は過去に執筆したご自身のBL小説『あいのはなし』が着想の元になっているとのことです。

ただし一部の読者からは、社会から誤解を受ける人物像など、現実の事件とテーマ性において重なる部分を指摘する声もありますが、特定の事件をモデルにしたわけではありません。

Q2. 映画版の視聴者の感想や口コミでの評価はどうですか?

映画版の評価は、俳優陣の演技への絶賛と、原作との違いに対する様々な意見に分かれる傾向があります。

広瀬すずさん、松坂桃李さん、そして更紗の恋人・亮を演じた横浜流星さんの迫真の演技は、多くの観客から高く評価されました。

また『パラサイト 半地下の家族』の撮影監督が、手掛けた映像美を称賛する声も多いです。

一方で、原作ファンからは「小説の持つ繊細な心理描写が表現しきれていない」「ふたりの関係性が恋愛に近い形で描かれており、原作とは解釈が異なる」といった厳しい意見も見られます。

全体としては、見ごたえのある重厚な人間ドラマとして、多くの人の心に残る作品となっているようです。

Q3. 作者の凪良ゆう先生は、他にどんな作品を書いていますか?

凪良ゆう先生は、『流浪の月』以外にも数多くの評価の高い作品を発表している人気作家です。

ヨミト
ヨミト

特に有名なのが、2023年に再び本屋大賞を受賞した『汝、星のごとく』です。

こちらも『流浪の月』と同様に、ままならない人生を歩む人々の切ない関係性を描き、多くの読者の感動を呼びました。

※ 『汝、星のごとく』の詳細は、「『汝、星のごとく』あらすじ・ネタバレ徹底解説!切ない愛と人生の物語に涙…」で取り上げています。

その他にも、

  • 『わたしの美しい庭』
  • 『滅びの前のシャングリラ』
  • 『神さまのビオトープ』

といった一般文芸作品があります。また、デビュー以来、長年にわたりBL(ボーイズラブ)ジャンルでも第一線で活躍しており、そちらでも数多くの人気作を手がけています。

『流浪の月』あらすじと物語のポイント総まとめ

黒板に「まとめ」の文字

『流浪の月』は、単なるあらすじでは測れない、人間の孤独と絆の物語です。

事実と真実、善意と欺瞞、そして社会の「普通」とは何か。本物語は、私たち自身の心の物差しを静かに、しかし強く揺さぶります。

それでは最後にポイントを箇条書きでまとめます。

  • 2020年の本屋大賞を受賞した凪良ゆうの傑作小説
  • 広瀬すず・松坂桃李主演で実写映画化もされた話題作
  • 家庭に居場所のない少女・更紗と孤独な青年・文の出会いの物語
  • ふたりの穏やかな生活は「女児誘拐事件」として世間に断罪される
  • 15年後に再会したふたりは、過去の烙印と周囲の偏見に苦しむ
  • 物語の最大のテーマは、社会が認識する「事実」と当事者の「真実」の乖離
  • 文が抱える秘密は小児性愛ではなく、第二次性徴が訪れない身体的な病気
  • 周囲から向けられる無理解な「善意」が、時に暴力となり得ることを描く
  • 更紗の恋人・亮によるDVやネットへの情報暴露がふたりを追い詰める
  • ケチャップのシーンは、ふたりの純粋な絆と文の絶望を象徴する名場面
  • 倫理観を揺さぶる設定から「気持ち悪い」と感じるという意見もある
  • タイトルはふたりの境遇(流浪)と世間から見えない真実(月)を象徴
  • 原作と映画版では、結末のニュアンスや一部の登場人物の設定が異なる
  • 結末では社会から離れ、互いの存在を「居場所」として生きていくことを選ぶ
  • 恋愛や友情といった言葉では名付けられない、新しい関係の形を提示

最後までお読みいただき、ありがとうございました。書評ブロガーのヨミトがお届けしました。詳しいプロフィールはこちら

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