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この記事でわかること
✓ 物語第一部・第二部にわたる詳細なあらすじと結末
✓ 狸や天狗、人間といった個性的な登場人物たちの詳細と複雑な関係性
✓ 「面白きことは良きことなり」という信条や家族愛といった物語のテーマ
✓ 原作小説とアニメの違いや、舞台となった京都の聖地巡礼の楽しみ方
もし、あなたの隣を歩く人が、実は狸が化けた姿だとしたら?
人気作家・森見登美彦が描く『有頂天家族』は、そんな不思議が日常に溶け込んだ古都・京都が舞台です。
主人公は、父を人間たちの「狸鍋」で亡くした、狸の名門一家・下鴨家の四兄弟。
彼らは「面白きことは良きことなり!」という父の教えを胸に、ライバル一族の陰謀や、気まぐれな天狗、謎の美女が巻き起こす大騒動に立ち向かっていきます。

なぜ父は鍋にされたのか? はたして毛深い彼らは、家族の絆で困難を乗り越えられるのでしょうか。
本記事では、小説『有頂天家族』のあらすじを、登場人物の魅力や物語の深いテーマ、アニメ版との違いや聖地巡礼ガイドまで、徹底的に解説します。
『有頂天家族』のあらすじと作品の基本情報

『有頂天家族』の世界をより深く楽しむために、まずは物語の基本情報からご紹介します。次の構成順にて、物語を読み解く上で欠かせない情報をまとめました。
- 小説『有頂天家族』とは?書誌情報をチェック
- 物語を彩る登場人物(相関図つき)
- 『有頂天家族』のあらすじ【ネタバレなし】
- 原作小説で読むから面白い!3つの深い魅力
- 原作小説とアニメの違いを比較解説
- 物語の世界へ!京都の聖地巡礼ガイド
小説『有頂天家族』とは? 書誌情報をチェック
『有頂天家族』は、人気作家・森見登美彦さんによって生み出されたファンタジー小説です。
『夜は短し歩けよ乙女』や『四畳半神話大系』などの作品で知られ、現代の京都を舞台にしています。
まずは作品の基本的な情報から見ていきましょう。
項目 | 詳細 |
著者 | 森見 登美彦(もりみ とみひこ) |
出版社 | 幻冬舎 |
刊行日 | 2007年9月(単行本)2010年8月(文庫版) |
シリーズ構成 | 全三部作構想の第一部 |
高い評価とメディア展開
『有頂天家族』は、狸の一族が主人公というユニークな設定でありながら、普遍的な家族愛を描いた物語です。その魅力から2008年の本屋大賞で3位に選ばれるなど、発売当初から高い評価を受けました。
また物語の面白さからテレビアニメや漫画、ラジオドラマ、舞台など、様々な形でメディア展開がなされています。多くのファンに愛され続けている作品といえるでしょう。

本作から森見登美彦氏の世界に触れるという方にも、非常におすすめの一冊です。
物語を彩る登場人物(簡易相関図つき)

『有頂天家族』には、狸と天狗、そして人間という3つの種族にまたがる、非常に個性的で魅力的な人物たちが数多く登場します。
彼らが織りなす複雑な人間模様(狸模様?)こそが、この物語の面白さの源泉といえるでしょう。
主な登場人物たちの関係性を知ることで、物語をより深く楽しむことができます。
主人公一家「下鴨家」
狸の名門ですが、偉大な父・総一郎を狸鍋で亡くして以来、少し落ちぶれ気味の一家。「面白きことは良きことなり!」が信条の三男・矢三郎(やさぶろう)が、この物語の主人公です。
他にも、生真面目ですが土壇場に弱い長男の矢一郎(やいちろう)がいます。また、とある理由で蛙に化けて井戸に引きこもる次男・矢二郎(やじろう)も登場。
気が弱く化け術が苦手な四男・矢四郎(やしろう)、そして宝塚を愛する母・桃仙(とうせん)という個性豊かな家族が揃っています。
物語を動かすキーパーソン
弁天(べんてん)
元は「鈴木聡美(すずき さとみ)」という人間でしたが、天狗にさらわれて神通力を身につけました。
妖艶な美女ですが、気まぐれで恐ろしい一面も持っています。矢三郎の初恋の相手でありながら、彼の父の死に深く関わっている謎多き存在です。
赤玉先生(あかだま せんせい)
矢三郎たち狸の師匠で、かつては京都の空を支配した大天狗です。しかし今では力を失い、古いアパートでひっそりと暮らしています。弟子の弁天に恋焦がれていますが、全く相手にされていません。
夷川家(えびすがわけ)
下鴨家とライバル関係にある狸の一家です。当主の早雲(そううん)は、下鴨兄弟の叔父でありながら、彼らを陥れようと様々な策略を巡らせます。
このように、登場人物は一癖も二癖もある者ばかりです。彼らの関係性を図で確認しながら読み進めると、物語の面白さが一層増すはずです。
相関図(簡易版)
下鴨家

下鴨家と夷川家の関係

天狗と人間

『有頂天家族』のあらすじ【ネタバレなし】

『有頂天家族』は、古都・京都を舞台にした心温まる家族の物語です。人間に化けた狸の一家が、奇想天外な出来事を繰り広げます。
父を亡くした狸一家の物語
狸の名門・下鴨家の三男である主人公・矢三郎は、「面白きことは良きことなり!」という父の教えを胸に生きています。
矢三郎は退屈な日々を嫌っています。しかし彼らの一家は、狸鍋にされてしまった偉大な父・総一郎を失って以来、どこか頼りない存在になっていました。
物語の背景には父の死に隠された真相や、叔父・夷川早雲が率いるライバル一族との長年の確執があります。そういった、少しシリアスなテーマが存在するのです。
愉快で波乱万丈な日々
それでも矢三郎は、持ち前の阿呆の血を発揮します。兄弟たちと共に京都の街を縦横無尽に駆け巡るのです。
例えば、真面目すぎる長兄を助けるために奔走したり、人間である美女・弁天に振り回されたりします。落ちぶれた天狗の師匠の世話を焼くなど、彼の日常は騒動の連続です。
五山の送り火の夜には、ライバル一族と空飛ぶ納涼船で派手な空中戦を繰り広げる場面もあります。
愉快な毎日の中で、一家は父の死に関わる大きな陰謀に巻き込まれ、絶体絶命の危機に直面します。
果たして、へなちょこ揃いの下鴨家の兄弟たちは、この困難を乗り越えることができるのでしょうか。
家族の絆を武器に立ち向かっていきます。笑いと少しの切なさ、そしてあたたかな感動が詰まった、唯一無二の毛玉ファンタジーがここにあります。
原作小説で読むから面白い! 3つの深い魅力

アニメ版も非常に高い評価を受けていますが、原作小説には文字だからこそじっくりと味わえる、3つの深い魅力が存在します。
森見氏ならではの独特な文章表現
第一に、森見登美彦さんならではの独特な文章のリズムです。
例えば、「阿呆の血のしからしむるところ」といった少し古風で格式張った言い回しがあります。それと同時に、「狸たちがうごうごしている」のような、くすりと笑える可愛らしい表現が同居しています。
まるで軽快な落語を聞いているかのような、この心地よい言葉の運びは、活字を通してこそ最大限に堪能できるでしょう。
登場人物たちの細やかな心理描写
第二の魅力として、登場人物たちの細やかな心理描写が挙げられます。
物語は主に主人公・矢三郎の視点で語られるため、彼の皮肉めいた心の声をより直接的に感じ取れます。また他の登場人物に対する本音も深く理解できるのです。

亡き父への複雑な思いや、ミステリアスな女性・弁天に対する感情は特に注目です。
憧れと警戒心が入り混じった気持ちは、小説で読むことで一層深く理解できます。
読者の想像力をかき立てる世界観
そして第三に、読者の想像力を豊かにかき立てる世界観の描写があります。
狸たちが様々なものに化ける様子や、空飛ぶ納涼船での大立ち回りといった奇想天外な光景が描かれます。これらはあえて、文章のみで表現されています。
そのため読者は自分自身の頭の中に、自分だけの『有頂天家族』の世界を自由に思い描くことが可能です。この想像の余地こそ、小説を読む大きな楽しみのひとつではないでしょうか。
原作小説とアニメの違いを比較解説
アニメ版は、原作小説の面白さを非常に大切にし、忠実に映像化しています。しかし文字で読む小説と、映像と音で楽しむアニメとでは、それぞれに違った魅力があります。
両方を知ることで物語の世界はさらに深まります。
映像と音で広がる世界観
まず、原作の魅力が森見氏の独特な文章にあるとすれば、アニメの最大の魅力はその文章の世界を見事に映像化した点でしょう。

例えば、下鴨神社や糺の森といった実在の風景は、思わず訪れてみたくなるほど美しく描かれています。
また狸たちが繰り広げる、「大文字納涼船合戦」のような奇想天外な場面も魅力です。迫力ある映像と音楽によって、小説とはまた違う興奮を味わえます。
キャラクターたちの心情も、主人公・矢三郎を演じる櫻井孝宏さんをはじめとする声優陣の巧みな演技によって、より直接的に心に響いてくるはずです。
声がつくことで深まるキャラクター
次に、声や動きがつくことで、キャラクターの印象が少し変化するのも面白い点です。
原作者の森見さんが語るように、アニメの主人公・矢三郎は原作の飄々とした雰囲気よりも、少ししっとりとした情感豊かな青年として描かれています。
これはアニメの吉原正行監督の優しい視点が、反映された結果かもしれません。
他にも、生真面目な長兄の矢一郎がより頼もしく見えたりします。元許嫁である海星のツンデレな可愛らしさが際立ったりと、アニメならではの発見があるでしょう。
どちらを先に楽しむべき?
ここで、「どちらを先に楽しむべきか」という楽しい悩みが出てきます。
先にアニメを観ると、美しい京都の風景やキャラクターのイメージが具体的になります。そのため、小説を読んだ時に情景を思い浮かべやすくなるでしょう。
一方、先に小説を読めば、まずは自分だけの自由なイメージで物語の世界を堪能できます。その後にアニメで「答え合わせ」をするような楽しみ方ができます。

どちらの順番にも良さがありますが、体験の質が少し変わってくる点は注意点といえるかもしれません。
以上のように原作とアニメは、互いの魅力を高め合う素晴らしい関係にあります。ぜひ両方に触れて、『有頂天家族』の毛深くも奥深い世界を隅々まで味わってみてください。
物語の世界へ! 京都の聖地巡礼ガイド

『有頂天家族』の大きな魅力のひとつは、物語の舞台が実在の京都であることです。
作中に登場する場所を実際に訪れることで、特別な体験ができます。まるで物語の世界に入り込んだかのような気持ちになれるでしょう。ここでは、聖地巡礼におすすめのスポットをいくつかご紹介します。
下鴨家の住処「下鴨神社」
まず外せないのが、主人公たち下鴨家の住処である「下鴨神社」と、その境内にある「糺の森」です。ここは世界遺産にも登録されており、豊かな自然の中を散策するだけでも気持ちが良い場所です。
作中では狸たちが駆け回っていますが、実際に狸の目撃情報もあるというから驚きです。
矢二郎が暮らす「六道珍皇寺」
次に、次男・矢二郎が蛙の姿で引きこもっている井戸がある「六道珍皇寺」も印象的な場所です。
このお寺は古くから「あの世への入り口」という伝説があります。作中の不思議な雰囲気を肌で感じられるでしょう。
狸たちが闊歩する繁華街
また物語の重要なシーンで度々登場するのが、京都市中心部の繁華街です。
例えば、矢三郎と弁天が屋根の上を散歩した「寺町京極商店街」があります。

狸たちが人間になりすまして通うバー「朱硝子」のモデルとなった「BARノスタルジア」などもおすすめです。
巡礼のポイントと注意点
これらの場所を訪れれば、狸たちの日常をより身近に感じられるはずです。
聖地巡礼をする際は、公共交通機関を上手に利用するのが良いでしょう。京都市内はバスや電車が発達しており、多くのスポットを効率よく回ることができます。
ただし住宅街にある場所も含まれるため、訪れる際は地域住民の方々への配慮を忘れないようにしましょう。
『有頂天家族』のあらすじをネタバレありで深掘り考察

ここまで、『有頂天家族』の基本的な情報や、ネタバレなしの魅力についてご紹介しました。
ここからは次の構成順にて、物語の核心に迫るネタバレを交えながら、物語をさらに深掘り考察をしていきます。
- 第一部のあらすじと結末|父の死と早雲の罪【ネタバレ】
- 第二部のあらすじと結末|二代目が泣いた理由【ネタバレ】
- 弁天はなぜ泣く?「クズ」で「かわいそう」な彼女の孤独
- 海星の正体と矢三郎との未来は?「化けの皮」の謎と結婚の可能性
- 蛙になった矢二郎|井戸の底から見つめていたもの
- 【展望】小説3部はいつ?そしてアニメ3期の可能性は?
- 『有頂天家族』に関するQ&A
第一部のあらすじと結末|父の死と早雲の罪【ネタバレ】
第一部の物語は、下鴨家の父・総一郎がなぜ狸鍋にされてしまったのか、その悲しい謎を軸に展開していきます。
ここからは物語の核心に触れるため、未読の方はご注意ください。
父の死に隠された卑劣な陰謀
当初、父の死は不運な事故だと思われていました。しかし物語が進むにつれ、その裏に叔父・夷川早雲の卑劣な裏切りがあったことが明らかになります。
早雲は、偉大な兄・総一郎への長年の妬みから彼を騙しました。そして、人間の秘密結社「金曜倶楽部」のメンバーである美女・弁天に引き渡していたのです。
これが、父が狸鍋になった事件の真相でした。
絶体絶命の危機と兄弟の反撃
父の死の真相を知り、兄弟たちが悲しみに暮れるな、早雲の悪だくみはさらにエスカレートします。
早雲は狸界の新たな頭領「偽右衛門」の座を確実にするため、今度は下鴨家の母・桃仙までも狸鍋にしようと画策しました。

息子の金閣・銀閣を使って矢四郎や矢三郎を罠にはめ、矢一郎と母を捕らえ、下鴨家を完全に潰そうとします。
絶体絶命の危機のなか、一筋の光が差します。それは敵対する夷川家の娘でありながら、矢三郎を気にかける海星の助けでした。
海星の助言で窮地を脱した末弟の矢四郎は、井戸に引きこもる次兄・矢二郎のもとへ駆けつけます。
父との思い出の酒「偽電気ブラン」を飲んで復活した矢二郎は、得意の「偽叡山電車」に化けて師走の京都を大爆走しました。そして、囚われていた母と兄を、土壇場で救い出すのです。
大混乱のクライマックスと結末
物語のクライマックスは、金曜倶楽部の忘年会と偽右衛門の選挙会場が一体となった料亭です。ここで繰り広げられる大立ち回りは圧巻です。
矢一郎が狸たちの前で早雲の罪を暴き、大天狗・赤玉先生が酔って怒りを爆発させ、会場を吹き飛ばすほどの騒動になります。この大混乱の中、早雲は追い詰められ、姿をくらますのでした。
結末として、父の死の真相は明らかになりましたが、矢三郎たちは復讐という道を選びません。
むしろ、家族の絆を再確認します。「面白きことは良きことなり」という父の信条を胸に、これからも阿呆らしくも楽しく生きていくことを決意するのです。

悲劇を乗り越え、それでもなお人生の面白さを肯定する彼らの姿が、深く心に残る結末となっています。
第二部のあらすじと結末|二代目が泣いた理由【ネタバレ】

第二部『二代目の帰朝』は、新たな登場人物の出現により、物語がさらに大きく動き出す展開となります。ここからは物語の核心に深く触れますので、未読の方はご注意ください。
二代目の帰朝と新たな対立
物語は、赤玉先生の息子「二代目」が百年ぶりに京都へ帰ってくるところから始まります。彼はかつて父と争い英国へ渡りました。
父への複雑な感情を抱えており、同じく赤玉先生と因縁のある弁天との間にも、激しい対立が生まれます。
一方の下鴨家では、長男・矢一郎に恋の相手が現れます。
次男・矢二郎が自らの過去と向き合うために旅に出るなど、兄弟それぞれに成長の兆しが見られます。しかしその裏で、失踪していたはずの叔父・夷川早雲が暗躍していました。

早雲は長男・呉一郎になりすまして下鴨家を欺き、再び彼らを狸鍋の危機に陥れようとしていたのです。
天狗親子の雪解け
クライマックスでは、早雲の恐ろしい計画が、矢二郎の活躍によって阻止されます。彼は四国から本物の呉一郎を連れて帰ってきたのです。
すべての騒動が解決した後、二代目と弁天は互いのプライドを賭けて壮絶な決闘を繰り広げ、ついに弁天は敗北します。
注目すべきは、その後の二代目の行動です。彼は宿敵を打ち負かしたにもかかわらず、駆けつけた父・赤玉先生の前で、まるで子どものように泣きじゃくりました。
この涙は、単なる勝利の喜びではありません。
百年もの間、父に会えず抱え込んできた寂しさや、認めてもらいたいという切ない気持ちが、父との再会によって一気にあふれ出した結果でしょう。
長きにわたる天狗親子の確執が、ようやく雪解けを迎えた瞬間でした。
弁天はなぜ泣く?「クズ」で「かわいそう」な彼女の孤独

自由奔放に振る舞う弁天は、時には残酷な一面も見せます。
父・総一郎を狸鍋にしてしまうなど、その行動から「クズ」と評されることもあるでしょう。しかし弁天の行動の根底には、他の誰にも理解されない深い「孤独」が横たわっていると考えられます。
もとは「鈴木聡美」という名の普通の人間だった彼女は、大天狗・赤玉先生にその才覚を見出されました。そして天狗の神通力を授かったのです。
その結果、人間でも天狗でも、そしてもちろん狸でもない、どこにも完全には属せない唯一無二の存在となります。
手に入れた強大な力で師匠である赤玉先生すらも超えてみせます。しかし高く高く飛び上がった先には、誰もいない孤独な空が広がっているだけでした。
涙に隠された「喪失感」と「寂しさ」
そんな弁天が、夜中に井戸の淵で月を見上げてひとり涙を流すシーンは非常に象徴的です。これは求婚者に無理難題を突き付けた末、月に帰っていった「かぐや姫」の物語と重なります。
弁天の涙は、もはや普通の人間として生きる道を失ったことへの「喪失感」ではないでしょうか。

強さと美しさを手に入れた代償として、誰とも本当の意味で繋がれない「寂しさ」の表れともいえます。
圧倒的な力を持つがゆえの底知れない孤独を抱える彼女の姿は、まさしく「かわいそう」であり、物語に善悪では語れない深い奥行きを与えています。
海星の正体と矢三郎との未来は?「化けの皮」の謎と結婚の可能性

矢三郎の元許嫁でありながら、決して彼の前に姿を見せようとしない謎の少女・海星。
彼女は宿敵・夷川家の娘ですが、物語の随所で下鴨家の危機を救う重要な役割を果たします。特に矢三郎を助ける場面が多く見られます。
第二部では、海星が姿を隠し続けていた感動的な理由がついに明かされます。
明かされる「化けの皮」の謎
海星が矢三郎の前に現れなかったのは、矢三郎が彼女の姿を見ると、緊張と思慕のあまり得意の「化けの皮が剥がれてしまう」からでした。これは、狸にとって抗いがたい「弱点」です。
しかし見方を変えれば、化け術の達人である矢三郎が唯一、冷静さを失ってしまうほど、海星が特別な存在であることの何よりの証明といえるでしょう。
矢三郎自身がそのことに長年気づかなかったため、海星は彼を想い、彼のプライドを守るために、ずっと影から見守るという健気な選択をしていたのです。
「運命の赤い毛」で結ばれたふたりの未来
「化けの皮が剥がれる」という問題は、ふたりが将来を共にする上での大きな障害です。ですが第二部の終盤で、ふたりはついに直接顔を合わせ、矢三郎も「いずれ夫婦になる」と宣言します。
狸の祖母がふたりを「運命の赤い毛でぐるぐる巻き」と評したように、彼らの絆は非常に強いものです。

第三部でこのユニークな問題をどう乗り越えていくのか、ふたりの恋路と結婚の可能性から目が離せません。
蛙になった矢二郎|井戸の底から見つめていたもの

やる気がなく、常にのんびりしているように見える次男・矢二郎。彼が狸の姿を捨て、蛙に化けて井戸の底に引きこもっていたのには、物語の根幹に関わる、深く切ない理由がありました。
罪悪感と後悔の日々
それは父・総一郎が狸鍋にされた夜の出来事に遡ります。
あの日、父と大好きな酒「偽電気ブラン」を酌み交わした矢二郎は、得意の「偽叡山電車」に化けて京都の街を駆け巡りました。
しかし楽しい時間の後、父をひとり残して先に帰ってしまったことが、矢二郎の運命を大きく変えます。
その直後に父が捕らえられたと知った彼は、「自分のせいで父は死んだのだ」という重い罪悪感を背負い込んでしまったのです。
井戸の底から見守る日々
矢二郎が引きこもった六道珍皇寺の井戸は「冥途への入り口」とも伝わる場所です。そこで狸であることをやめ蛙になるという行為は、父への贖罪と、自らを罰するための静かな時間でした。
ですが、矢二郎はただ塞ぎ込んでいたわけではありません。井戸の底から外の世界の出来事に耳を澄ませ、狸や天狗たちの悩みを聞くうちに、いつしか情報通の聞き役となっていました。

矢二郎は静かに、そして誰よりも深く、家族のことを見守っていたのです。
過去を乗り越えて
矢二郎の長い贖罪の時間は、家族の危機によって終わりを告げます。弟が井戸に注いだ一杯の「偽電気ブラン」をきっかけに、彼はかつての姿を取り戻しました。
父との幸せな記憶と、悲しい後悔の象徴であった「偽叡山電車」に再び化けた彼は、今度は家族を救うために京都の街を疾走するのです。
矢二郎の引きこもりは決して現実から逃げたのではなく、彼なりの方法で父の死と向き合うための、長く大切な時間でした。
だからこそ、彼は井戸の底から力強く復活し、家族の危機を救う大きな力となることができたのです。
【展望】小説3部はいつ? そしてアニメ3期の可能性は?

『有頂天家族』シリーズが三部作構想であることは、作者の森見登美彦氏自身が公言しています。多くのファンが、完結編の登場を心待ちにしていることでしょう。
待望の小説第三部
完結編となる第三部の正確な発売日は、残念ながらまだ発表されていません。しかし希望の光は確かに見えています。
2023年のイベントで執筆への意欲を語った森見氏は、2024年にもファンからのメッセージに応えました。
「臍石(へそいし)さまのようにズンと重い愛を背負って、この長大な有頂天坂を登り切る」と、氏らしい表現で決意を表明しています。
第二部の巻末予告によれば、タイトルは『天狗大戦』となる予定です。赤玉先生の跡目を巡る二代目と弁天の対立や、地獄に落ちた夷川早雲のその後などが描かれると予想されます。
物語がどのような結末を迎えるのか、期待は高まるばかりです。
アニメ第三期への期待
アニメの第三期についても、もちろん原作小説の完成を待つ形となります。ですがこちらも制作陣の熱意は非常に高い状態です。
制作会社P.A.WORKSの堀川プロデューサーは「何としてでも最後まで形にしたい」と繰り返し公言しています。
さらに、同社には「『有頂天家族3』を描くことが夢です」と語る新人アニメーターが入社するなど、作り手の側にも熱い思いが受け継がれているのです。

すぐにとはいかなくても、物語が再び動き出す日はそう遠くないかもしれません。
近年では、ファンの熱意によって毎年12月26日が「有頂天家族の日」として記念日認定もされました。
この日をお祝いしながら、気長に、そして阿呆らしく、毛深い家族の帰りを待つのが良いのかもしれませんね。
『有頂天家族』に関するQ&A

ここでは『有頂天家族』をこれから楽しむ方や、見終えたばかりの方が抱きがちな疑問についてお答えします。
Q1. 小説を読む順番は?
小説『有頂天家族』シリーズを読む際は、出版された順番どおりに進めるのがもっともオススメです。
『有頂天家族』
↓
『有頂天家族 二代目の帰朝』
物語はこの順番で完全に繋がっています。第一部で起こった出来事や張られた伏線が、第二部で回収されたり、さらに発展したりします。
登場人物たちの関係性の変化を正しく理解するためにも、まずは第一部から手に取ってみてください。
Q2. 結局、誰が一番の黒幕なの?
物語の中でもっともわかりやすい悪役、つまり黒幕といえるのは、下鴨兄弟の叔父である夷川早雲です。
早雲は第一部で兄である総一郎を金曜倶楽部に売り渡して死に追いやってしまいました。
第二部では息子になりすまして下鴨家を再び危機に陥れます。彼の兄に対する長年の妬みが、多くの騒動の直接的な原因となっています。
もうひとりの黒幕「寿老人」
ただしもうひとり注目すべき人物がいます。それは人間たちの秘密結社「金曜倶楽部」を束ねる寿老人です。
彼は狸たちを愉しみの対象としか見ておらず、その底知れない不気味さを持っています。早雲のような狸の悪役とはまた違った次元の恐ろしさがあるでしょう。

単純な黒幕というより、物語の世界に存在する、抗いがたい理不尽さの象徴ともいえるかもしれません。
Q3. 小説・アニメはどこで読める・見られる?
小説とアニメは、それぞれ様々な方法で楽しむことが可能です。
原作小説を読むには
小説は全国の書店やAmazon、楽天ブックスなどのオンラインストアで購入できます。
またコミックシーモアをはじめとする、電子書籍サービスでも配信されているため、スマートフォンやタブレットですぐに読み始めることもできます。
アニメを視聴するには
アニメ(第一期・第二期)については、複数の動画配信サービスで視聴できます。
例えば、dアニメストア、Hulu、U-NEXT、DMM TVなどが見放題配信の対象です。これらのサービスは無料お試し期間を設けている場合もあるので、活用してみるのも良いでしょう。
ただし配信状況は変更される可能性があります。視聴する前には各サービスの公式サイトで、最新の情報を確認することをおすすめします。
『有頂天家族』のあらすじと物語の魅力【総まとめ】

『有頂天家族』は、父の死の謎を背景に、狸の一家が繰り広げる愉快で少し切ない家族の物語です。
本記事で作品の魅力に触れた方は、ぜひ小説やアニメで「面白きことは良きことなり」を信条とする、毛深い彼らの世界を体験してみてください。では最後にポイントを箇条書きでまとめます。
- 京都を舞台に狸・天狗・人間が織りなす奇想天外な物語である
- 作者は『夜は短し歩けよ乙女』で知られる人気作家・森見登美彦氏
- 主人公は父を狸鍋で亡くした狸の名門・下鴨家の三男、矢三郎
- 「面白きことは良きことなり」という父の教えが物語の信条
- 第一部は父の死の真相と叔父・夷川早雲の陰謀を巡って展開
- 人間でありながら天狗の力を持つ美女・弁天が物語の鍵を握る
- 兄弟の師である落ちぶれた大天狗・赤玉先生との師弟関係も魅力
- 第二部では赤玉先生の息子「二代目」の帰朝が新たな波乱を呼ぶ
- 家族の絆で危機を乗り越え、復讐ではなく「面白く生きる」道を選ぶ
- 第二部の結末では天狗親子の百年にわたる確執が終わりを迎える
- 笑いと少しの切なさの中に、普遍的な家族愛というテーマが流れる
- 森見氏独特の古風でリズミカルな文体が原作小説の大きな特徴
- アニメ版は原作に忠実かつ、京都の美しい風景描写で高い評価を得る
- 物語の舞台は実在の京都で、下鴨神社など聖地巡礼も楽しめる
- 物語は全三部作構想で、完結編となる第三部『天狗大戦』が待望される
最後までお読みいただき、ありがとうございました。書評ブロガーのヨミトでした。【詳しいプロフィールはこちら】