
この記事のポイント
- ネタバレを避けつつ物語の全体像を把握できる
- ネタバレありで結末までの詳細なストーリー展開がわかる
- 物語の鍵となる「絵」の謎や登場人物に関する疑問点が解消される
- 作品の魅力や背景情報、さらに深く楽しむための考察ポイントを知れる
「ただの絵」のはずが、なぜこんなにも不気味なのか?
一見無関係に見える9枚の奇妙な絵。そこに隠された点と点が線で結ばれたとき、あなたは息をのむような衝撃の真実を目の当たりにするでしょう。
ホラー作家兼YouTuber・雨穴が仕掛ける、前作『変な家』を超えるかもしれないスケッチ・ミステリー『変な絵』。
この記事では、その巧みな物語構造から登場人物の歪んだ心理。そして散りばめられた伏線の意味まで、ネタバレありで徹底的に解き明かしていきます。

あなたは絵に秘められた、メッセージを読み解く準備はできましたか?
※ 本記事は多くのネタバレが含まれますので、ご注意ください。
『変な絵』のあらすじをサクッと解説

『変な絵』の世界へようこそ。この章では次のことを取り上げ、まずは作品の基本的な情報をお伝えします。
- 簡潔なあらすじ|ネタバレなし
- 主な登場人物
- 作品の魅力と見どころポイント
- 書籍情報
- 作者・雨穴さんってどんな人?
簡潔なあらすじ|ネタバレなし
この物語は、9枚の奇妙な絵に隠された謎を解き明かしていくスケッチ・ミステリーです。ホラー作家兼YouTuberである雨穴氏が手掛ける本作では、一見すると無関係に見える複数の絵が登場します。
例えば、とあるブログに投稿された『風に立つ女の絵』や、行方不明の少年が描いたとされる『灰色に塗りつぶされたマンションの絵』。
さらに山奥で発見された遺体が残した『震えた線で描かれた山並みの絵』などです。
これら9枚の絵にはそれぞれ不可解な点が潜んでいます。読み進めるうちに、それぞれの絵が持つ意味や、描かれた背景が徐々に明らかになっていきます。
そして点と点が繋がり線となったとき、すべての事件を結びつける衝撃的な真実が浮かび上がるのです。

読者は提示される絵の謎を追いながら、物語の真相へと迫っていくことになります。
主な登場人物

『変な絵』には、物語の謎を深める多様な人物が登場します。それぞれのキャラクターが持つ背景や視点が、複雑に絡み合う物語を形作っています。
物語の中心となる人々
■栗原
大学のオカルトサークルに所属する青年です。彼が奇妙なブログ『七篠レン心の日記』を発見したことから、物語は大きく動き出します。前作『変な家』でも活躍した、キーパーソンのひとりといえるでしょう。
■佐々木修平
栗原の先輩で、同じくオカルトサークルに所属しています。栗原と共にブログの謎解きに挑むことになります。
■今野直美
物語全体を通して重要な役割を担う女性です。息子である武司や孫の優太との関係性のなかに、多くの謎が隠されています。
■今野武司(七篠レン)
直美の息子であり、栗原が発見したブログの管理人。彼の視点から語られる日記も、物語を理解する上で欠かせません。
■今野由紀
武司の妻です。彼女が生前に描いたとされる数枚の絵が、事件の真相を解く鍵となります。
■今野優太
武司と由紀の間に生まれた息子。幼い彼が描く絵にも、重要な意味が込められています。
事件に関わる人々
■岩田俊介・熊井勇
L日報に勤める新聞記者です。過去に起きた美術教師の殺人事件を追うなかで、現在の出来事との繋がりを見出していきます。
■三浦義春
故人である高校の美術教師。彼の不可解な死もまた、物語を構成する重要な要素となっています。
これらの登場人物たちの関係や過去が明らかになるにつれて、物語の全貌が見えてきます。
作品の魅力と見どころポイント

本作『変な絵』の最大の魅力は、9枚の「絵」をフックにした独特な構成と、散りばめられた伏線が見事に回収される点にあります。
読者は提示される奇妙な絵を手がかりに、まるでパズルを解くように物語の真相に迫る体験ができるのです。
視覚的な謎解き|スケッチ・ミステリー
まずスケッチ・ミステリーという斬新な設定が挙げられます。前作『変な家』は「間取り図」をテーマにしていましたが、今回は「絵」が謎解きの中心です。
絵という視覚的な要素が加わることで、文字だけでは表現しきれない不気味さや違和感をより強く感じさせるでしょう。
緻密な構成と伏線回収
次に緻密に練られたストーリー構成と、伏線回収も見逃せません。
第一章から最終章にかけて、異なる時間軸や視点から描かれるエピソードが登場。それらが終盤で驚くべき形でひとつに繋がるのです。
「あの絵にはそんな意味があったのか」「あの時の違和感はこれだったのか」といった発見が随所にあります。

読了後には爽快感とともに、もう一度読み返したくなるような深みを感じられるでしょう。
ヒトコワ要素と心理描写
加えて、単なるミステリーに留まらない点も魅力といえます。
登場人物たちの歪んだ心理や異常な執着といった、人間の内面に潜む怖さ、いわゆる「ヒトコワ」要素が巧みに描かれているのです。
美しい絵の裏に隠された人間の狂気が、じわじわとした恐怖感を与えます。
多角的な楽しみ方
さらに作者である雨穴氏ならではの世界観も健在です。
YouTube動画や作中ブログと連動した仕掛けなど、小説単体だけでなく、多角的に作品世界を楽しむ工夫が凝らされています。
ミステリーファンはもちろん、ホラー好きや一風変わった物語を求める読者にもおすすめできる一冊です。
書籍情報
『変な絵』は、ウェブライターでありYouTuberとしても活動する雨穴さんによる長編小説です。
2022年10月20日、双葉社から単行本(ソフトカバー)として初めて刊行されました。ページ数は288ページです。
項目 | 内容 |
タイトル | 変な絵 |
著者 | 雨穴 |
出版社 | 双葉社 |
刊行日(単行本) | 2022年10月20日 (ISBN: 978-4-575-24567-7) |
刊行日(文庫本) | 2025年1月15日 |
ページ数 | 288ページ(単行本) |
備考 | 漫画版、英語版あり。単行本特典動画、文庫版追加収録あり。 |
刊行と反響
この作品は前作『変な家』に続く、雨穴さんの小説第二作目にあたります。2024年10月時点で累計発行部数は100万部を突破。多くの読者に支持されていることがうかがえます。
文庫版と特典
2025年1月15日には、待望の文庫版が発売されました。文庫版には、単行本にはなかった前日譚となる書き下ろし短編が追加収録されているのが特徴です。

これから購入を検討される場合は、追加要素のある文庫版も選択肢に入るでしょう。
また単行本の購入者特典として、雨穴さん自身による第一章「風に立つ女の絵」のオモコワ朗読動画(約1時間)が視聴できるQRコードが巻末に付いていました。 ※ 現在の提供状況はご確認ください。
メディア展開
さらに本作は相羽紀行さんの作画により漫画化もされており、2024年3月15日にコミック第1巻が発売されています。
2025年1月には、英語版『Strange Pictures』がイギリスとアメリカで発売されるなど、海外にも展開しています。
作者・雨穴さんってどんな人?
雨穴(うけつ)さんは、日本のウェブライター、ホラー作家、そしてYouTuberとして多岐にわたって活躍しているクリエイターです。
プロフィールと活動開始
神奈川県出身とされていますが、本名、素顔、地声などは一切公開していません。
常に白い仮面と黒い全身タイツ姿でメディアに登場する、覆面作家として知られています。そのキャリアは、2018年にウェブメディア「オモコロ」のライターとして活動を開始したことから始まります。
当初は漫画家を目指していた時期もあったそうですが、文章表現へと転向されました。

「オモコロ」では、工作やオカルトをテーマにした独特な記事や動画で注目を集めるようになります。
人気YouTuberとしての一面
YouTubeチャンネル「雨穴」は、2025年2月時点で登録者数173万人、総再生回数は2億回を超えるほどの人気を誇ります。
ホラーやミステリーを基調としつつも、ときにシュールなギャグも交える独特な作風が特徴といえるでしょう。
『皮膚おりがみ』や『意味が分かると怖いラップ』、奇妙なおせちが届く年末年始のシリーズ動画などが代表的なコンテンツです。
ベストセラー作家として
作家としては、2021年に刊行したデビュー作『変な家』が大ヒットしました。
100万部を超えるベストセラーとなり、映画化・漫画化もされています。続く『変な絵』、そして『変な家2 〜11の間取り図〜』(2023年)も話題作となっています。
※ 変な家2のあらすじに関する詳細は、「【変な家2 あらすじ ネタバレ考察】11の間取り図の意味とヒクラハウスの目的」で取り上げています。
ペンネームの由来と影響
ペンネームの「雨穴」は、尊敬するウェブライター夢顎んくさんの名前に倣ったもの。

「まったく関係のない漢字を2つ並べた名前」にしたとのことです。
江戸川乱歩や桑田佳祐さん、ブライアン・ウィルソンさんなどからも影響を受けていると公言しています。
ミステリアスな存在感とオリジナリティあふれる作品で、多くのファンを魅了し続けているクリエイターといえるでしょう。
『変な絵』あらすじの謎と考察を深掘り

『変な絵』の基本的な情報を押さえたところで、いよいよ物語の深部へと足を踏み入れます。この章では次のことを取り上げて、『変な絵』の世界を徹底的に深掘りします。
- 詳細なあらすじ|ネタバレあり
- ネタバレ|重ねた絵が示す真実とは
- 風に立つ女の絵|謎多き一枚を考察
- ユキはなぜ逃げない?その理由を探る
- ユキの罪? ラストはなぜ殺されたのか
- 優太のその後はどうなった?結末は
- 考察ポイント|さらに深く楽しむために
詳細なあらすじ|ネタバレあり

ここからは『変な絵』の物語の核心に触れるため、未読の方はご注意ください。
第一章|七篠レン心の日記とユキの死
物語は大学のオカルトサークルに所属する栗原が、奇妙なブログ『七篠レン心の日記』を発見するところから始まります。
先輩の佐々木と共にブログを読み解くと、管理人レン(本名:今野武司)とその妻ユキ(旧姓:亀戸)の日々が綴られていました。
しかしユキの妊娠、逆子の判明、そして出産間近に描かれた5枚の「変な絵」には不穏なメッセージが隠されていたのです。
栗原はこれらの絵が複合絵であり、ユキが自身の死を予期し、義母・今野直美による殺害計画を示唆するダイイングメッセージだったのではないかと推理します。
実際にユキは出産時に死亡し、その3年後、絵の謎に気づいた武司はブログに意味深な最後の記事を残し、自殺してしまいます。
第二章|灰色に塗りつぶされたマンションの絵
第二章では視点が変わり、武司の死から数年後、祖母である直美と暮らす幼い今野優太が登場。
優太が保育園で描いた『灰色に塗りつぶされたマンションの絵』は、当初マンションの一室が塗りつぶされているように見えたものの、実は亡くなった母・ユキの墓石を描こうとしたものだったのです。
この絵を通して、直美と優太の関係(祖母と孫)や、直美が何かを隠していることが示唆されます。
第三章|過去の殺人事件と山並みの絵
第三章では、さらに時間は遡り、1992年の美術教師・三浦義春(直美の夫、武司の父)の殺人事件が描かれます。
新人記者・岩田俊介は、恩師である三浦の死の真相を追うなかで、三浦が死の間際に残した『震えた線で描かれた山並みの絵』に注目するようになります。
この絵は、直美による死亡推定時刻偽装(未消化物を利用)を見抜き、「朝まで生きていた」ことを示すためのものだと岩田は考えました。
しかし真相に近づきすぎた岩田もまた、直美によって三浦と同じ手口で殺害されてしまうのです。
岩田も死の間際に同じ絵を残し、「この絵を残すことでアリバイが有利になる人物=直美」が犯人だと伝えようとしたのでした。
一連の事件は、三浦の友人・豊川が犯人であるかのように偽装され、幕引きが図られますが、これも直美の犯行でした。
最終章|すべての真相と直美の動機
最終章ですべての謎が繋がります。拘置所にいる直美の回想によって、彼女の壮絶な半生と一連の犯行が明らかになるのです。
直美は11歳のとき(プロローグで描かれたA子)、虐待する実母を殺害しました。
その後、更生したかに見えましたが、「弱いものを守るためなら他者を傷つけても構わない」という歪んだ価値観を持ち続けていたのです。
夫・三浦が息子・武司に厳しく当たることから、武司を守るために三浦を殺害。
三浦殺害を目撃した豊川に脅迫され関係を強いられましたが、後に口封じのために殺害しました。事件を嗅ぎつけた岩田も同様に殺害します。
そして武司が由紀と結婚し、由紀が妊娠すると、「孫の母親になりたい(祖母ではなく)」という異常な願望を抱きます。

助産師の立場を利用し、由紀を高血圧に見せかけて出産時に死に至らしめたのです。
この由紀殺害は、武司を守るためではなく、直美自身の歪んだ欲望によるものでした。武司は母の罪を知り、絶望して自ら命を絶つことになったのです。
物語の結末と未来への希望
物語の結末では、直美の犯行を暴くために自ら囮となった記者・熊井勇が登場。熊井は直美に刺され逮捕のきっかけを作りますが、入院先で栗原(第一章の青年)と出会うことになります。
栗原は事件の真相と、ブログタイトルの本当の意味(「こんのたけし」のアナグラム)を解き明かし、熊井にひとり残された優太の保護を託すのでした。

ラストシーンでは熊井が優太を引き取り、同じ幼稚園の米沢親子とバーベキューをする様子が描かれます。
僅かながらも未来への希望を感じさせて物語は幕を閉じます。
ネタバレ|重ねた絵が示す真実とは
物語の核心に迫る重要な要素として、今野由紀が残した5枚の絵が挙げられます。これらは一見すると独立した人物画に見えます。
しかし実は複数枚を重ね合わせることで、隠されたメッセージが浮かび上がる「複合絵」という仕掛けになっていたのです。
複合絵の仕掛け
具体的には、5枚の絵(①帽子をかぶった赤ちゃん、②祈る老婆、③風に吹かれる女性、④少年、⑤男性)にはそれぞれ番号が振られていました。特定の組み合わせで重ねることで意味をなすのです。
ただしレン(武司)がブログに、アップロードする際に番号のサイズが変わってしまったため、正しい比率で重ね合わせる必要がありました。
殺害計画の告発
1番、2番、3番の絵を正しく重ねると、老婆(モデルは助産師であり義母の今野直美)が、逆子の状態である赤ん坊を女性(ユキ)から無理やり引きずり出そうとしている、衝撃的な構図が現れるのです。
これは直美が妊娠・出産を利用して、ユキを死に至らしめようとしている計画殺人を、ユキ自身が告発するダイイングメッセージでした。
未来への想い
また4番と5番の絵を重ねると、成長した息子(優太)と父親(武司)が仲睦まじく手を繋いで歩く姿が浮かび上がります。
これは自身がいなくなった後の家族の未来を案じ、遺される息子と夫への想いを託した絵と考えられます。
このように重ねられた絵はユキが感じていた恐怖と、家族への複雑な愛情を示す、巧妙かつ悲痛なメッセージだったのです。
風に立つ女の絵|謎多き一枚を考察
『風に立つ女の絵』は、物語の表紙にも使われ、ユキが描いた5枚の複合絵のなかでも特に印象的な一枚といえるでしょう。
この絵は前述の複合絵の3番目のパーツであり、ユキ自身がモデルであると推測されます。
単体での解釈と象徴性
この絵を単体で見た場合、風に髪や服をなびかせながら立つ女性が描かれています。
その表情は読み取りづらく、どこか遠くを見つめているようにも、あるいは不安や諦念を抱えているようにも解釈できるでしょう。

強い風はユキが直面していた逆境や、義母・直美から向けられる悪意の象徴と捉えることも可能です。
そのような状況下で、逃げることもできずにただ立ち尽くすしかない、ユキの絶望的な心境が表れているのかもしれません。
複合絵としての真価
しかしこの絵の真価は、他の絵と組み合わせたときに明らかになります。
老婆(直美)と赤ん坊の絵と重ね合わせることで、初めて「直美によるユキ殺害計画」という直接的なメッセージ性が現れる仕組みです。
単体ではどこか物悲しい雰囲気の美人画ですが、物語の文脈や複合絵の仕組みを知ることで、その裏に隠された恐怖と悲劇性が浮かび上がります。

まさに『変な絵』というタイトルを、体現する一枚であるといえるでしょう。
ユキはなぜ逃げない?その理由を探る

作中で今野由紀(ユキ)は、義母・直美の殺意に気づきながらも、積極的な回避行動を取らず、結果的に命を落としました。
この点について、多くの読者が「なぜ逃げなかったのか」という疑問を抱くかもしれません。その理由を探ると、ユキが置かれていた複雑で孤立した状況が見えてきます。
証拠の残らない巧妙な計画
まず考えられるのは、直美の計画が直接的・物理的な暴力ではなく、証拠を残しにくい巧妙なものだった点です。
直美は「塩入りのカプセル」をサプリメントと偽ってユキに飲ませ続け、高血圧による出産時のリスクを高めようと画策していました。この行為は、その時点では明確な殺人未遂とは断定しにくいものでした。

ユキが誰かに相談しても、「考えすぎ」「気のせいだ」と片付けられてしまう可能性があったでしょう。
直美にはいくらでも言い逃れの余地があったのです。
夫・武司との関係性
次に夫である武司の存在も大きいです。武司は母親である直美を深く信頼し、いわゆる「マザコン」の状態でした。
もしユキが武司に「お母さんに殺されそう」と訴えても、武司が母を信じ、ユキの言葉を疑う可能性は高かったはずです。
そうなればユキは家庭内でさらに孤立し、居場所を失ってしまうことを恐れたと考えられます。
孤立無援の状況
加えて、ユキには頼れる実家や友人がいなかったことも無視できません。両親とは絶縁状態であり、他に頼るあてもありませんでした。
経済的にも夫に依存していた状況で、幼い子どもを身ごもりながら家を出ていくという決断は非常に困難だったと推測されます。
八方塞がりの心境
これらの要因が重なり、ユキは「自分の思い過ごしかもしれない」「まさか本当に殺されることはないだろう」と自身に言い聞かせていた可能性があります。
明確な行動を起こせないまま、複合絵という形でメッセージを残すことしかできなかったのではないでしょうか。

逃げたくても逃げられない、八方塞がりの状況にあったといえるかもしれません。
ユキの罪? ラストはなぜ殺されたのか

物語を読み進めるなかで、レン(今野武司)がブログに残した「あなたが犯してしまった罪」という言葉。ここから、「妻であるユキには何か罪があったのではないか?」と疑問を持つかもしれません。しかし作中でユキ自身が、罪を犯したという事実は描かれていないのです。
ブログが示す「罪」の誤解
レンのブログの最後の記事「一番愛する人へ」で言及されている「あなた」とは、実は妻のユキではありませんでした。それは母親である今野直美を指していたのです。
直美が過去に犯した母親殺しや夫殺し、そして記者やその関係者の殺害といった数々の罪。それを知った武司が、母へ向けて綴った言葉だったのです。
直美の歪んだ母性と独占欲
それでは、なぜユキは殺されなければならなかったのでしょうか。その理由は直美の異常なまでの歪んだ母性と、独占欲にあると考えられます。
直美は息子・武司が由紀と結婚し、孫(優太)が生まれることを知ったとき、「ユキの代わりに自分が優太の母親になりたい」という強い願望を抱くようになります。

自分が「祖母」になることを受け入れられず、永遠に「母親」であり続けたいと考えたのでした。
計画的な犯行
この動機は、過去に武司を守るために犯したとされる殺人とは異なります。完全に直美自身の身勝手なエゴから来ているのです。
助産師という専門職の立場を悪用し、ユキに塩分を過剰摂取させることで高血圧を誘発。出産時に死亡させるという陰湿かつ計画的な方法で犯行に及びました。
ユキは無実の犠牲者
したがってユキは、直美の狂気的な執着の犠牲者です。彼女自身に殺されるべき罪や理由は、まったく存在しなかったといえるでしょう。
優太のその後はどうなった? 結末は

物語の終盤、母ユキや父武司を失い、祖母であり一連の事件の犯人でもある直美が逮捕された後、ひとり残された今野優太の行く末は読者の気になるところでしょう。
結論からいうと、優太は最終的に元新聞記者の熊井勇に引き取られ、共に生活していくことになるのです。
熊井勇による引き取りと経緯
事件の真相を追っていた熊井は、直美を逮捕に追い込むために自ら囮となり、直美に刺されて入院。
その入院先で、同じく足を怪我して入院していた青年(第一章にも登場した栗原)と出会うことになります。

栗原は事件の核心に迫る情報を提供する代わりに、熊井に優太の面倒を見ることを依頼(取引)しました。
熊井は自身の健康(癌の再発)に不安を抱えながらも、後輩記者・岩田の無念や、天涯孤独となった優太の将来を考慮。後見人となることを引き受けるのです。
未来への希望を示すラストシーン
物語のラストシーンは、熊井と優太が優太と同じ保育園に通う友人・米沢美羽と、その父親とのバーベキューに参加する場面で締めくくられます。
父親が作る「世界一うまい焼きそば」を囲み、少しずつ笑顔を見せる優太の様子が描かれています。

多くの悲劇があった後にも、未来に向けたささやかな希望を感じさせる結末といえるでしょう。
文庫版の追加情報
なお2025年1月に刊行された文庫版には、このラストシーンのさらに後、熊井と優太の新しい生活の一端を描いた書き下ろしの短編が追加収録されています。
優太の「その後」について、より深く知りたい方は文庫版を手に取ってみるのも良いかもしれません。
考察ポイント|さらに深く楽しむために

『変な絵』は、物語の真相が明らかになった後も、様々な視点から読み解くことで、より深く作品世界を楽しむことができる小説です。
読後にもう一度ページをめくりたくなるような、考察の余地が多く残されているのです。
9枚の絵の意味を再考する
例えば、作中に登場する9枚の「変な絵」それぞれの意味合いを再考してみるのも面白いでしょう。
特にプロローグと最終章で言及される「文鳥を守る樹の絵」は、犯人である直美の歪んだ心理や本質を象徴しており、物語全体のテーマにも繋がっていると考えられます。
他の絵についても、なぜそのモチーフが選ばれたのか、どのような意図が込められているのか。それらを考えてみると、新たな発見があるかもしれません。
連動ブログ『七篠レン心の日記』の活用
また物語と連動して、実際に存在するブログ『七篠レン心の日記』を訪れてみるのもオススメです。
作中では紹介されなかった日記を読むことで、レン(武司)とユキの日常に潜むさらなる違和感や、巧妙に隠された直美の存在に気づくことができるでしょう。

ケーキの切り分け方や些細な記述にも、伏線が隠されている可能性が考えられます。
登場人物の心理を探る
登場人物たちの心理描写を掘り下げてみるのも、考察の醍醐味といえます。直美の異常な母性や庇護欲はどのように形成されたのか。
武司はなぜ母から自立できなかったのか。あるいは三浦義春の行動の真意は何だったのか。
各キャラクターの行動原理や心情を深く探ることで、物語の人間ドラマとしての側面をより深く理解できるでしょう。
語られていない部分を想像する
さらに終盤に登場する栗原の役割や、彼が足を怪我していた理由、ラストシーンの米沢家の描写など、明確には語られていない部分について自由に想像を巡らせるのも楽しい読み方です。

他の読者の感想や考察と比較してみれば、自分では気づかなかった視点や解釈に出会えることもあるでしょう。
このように多角的に考察することで、『変な絵』の世界をより一層堪能できるはずです。
『変な絵』あらすじの重要ポイント総括

9枚の奇妙な絵、見事な伏線回収、背筋の凍る「ヒトコワ」。『変な絵』は、人間の狂気と悲劇、そしてその先に灯る僅かな希望を描いた傑作ミステリーです。
この記事が作品の多層的な魅力を、再発見するきっかけとなれば幸いです。それでは最後にポイントを箇条書きでまとめます。
- 『変な絵』は9枚の奇妙な絵に隠された謎を追うスケッチ・ミステリーである
- 物語は複数の視点と時間軸で構成され、最後に衝撃的な真実が明らかになる
- 主な登場人物は栗原、佐々木、今野直美、武司(レン)、由紀、優太など多岐にわたる
- 『変な家』にも登場した栗原が、本作でも謎解きのきっかけを作る
- 魅力は巧みな伏線回収と、絵を用いたミステリーという斬新な設定にある
- 人間の狂気や歪んだ心理を描く「ヒトコワ」要素も含まれる
- 作者は覆面作家でありYouTuberとしても人気の雨穴である
- デビュー作『変な家』に続く小説第二弾であり、『変な家2』も刊行済み
- 2025年1月発売の文庫版には書き下ろし短編が追加収録された
- ユキが描いた5枚の絵は重ね合わせることで意味が分かる「複合絵」であった
- 重ねた絵は義母・直美によるユキ殺害計画を示唆するダイイングメッセージだった
- 一連の事件の真犯人は、歪んだ母性を持つ今野直美であった
- ユキ殺害の動機は、直美の「孫の母親になりたい」という異常な願望による
- ユキが逃げなかった背景には、孤立した状況と直美の計画の巧妙さがある
- 残された息子・優太は、最終的に記者・熊井勇に引き取られ共に暮らす
それでは最後まで見ていただきありがとうございました。
参考情報
双葉社『変な絵』特設ページ
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