綿矢りさ『蹴りたい背中』のあらすじ|なぜ「気持ち悪い」のに評価される?

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綿矢りさ『蹴りたい背中』のあらすじ|なぜ「気持ち悪い」のに評価される?

この記事でわかること

物語の始まりから結末までの具体的なあらすじ

主要な登場人物たちの紹介と、彼らの歪で複雑な関係性

タイトルや名言に込められた、思春期の孤独や衝動といった作品のテーマ

芥川賞を受賞した理由や、作品が持つ文学的な評価

綿矢りさの芥川賞受賞作『蹴りたい背中』。その衝撃的なタイトルに惹かれ、「あらすじを知りたい」と思っている方も多いのではないでしょうか。

しかし本作は「傑作」という評価の一方で、読者からは「気持ち悪い」「不快」といった感想も聞かれる、非常に評価が分かれる作品でもあります。

「なぜ主人公は、同級生の背中を蹴りたいのか?」

「この物語の結末はどうなるの?」

「芥川賞を受賞したのは、一体なぜ?」

ここではそんな疑問にすべてお答えします。

ネタバレなしの簡単なあらすじから、物語の核心に迫る詳細なあらすじまで、わかりやすくご紹介。

さらに登場人物たちの複雑な心理や作品のテーマにも踏み込み、あらゆる角度から『蹴りたい背中』を徹底的に解説します。

この記事の筆者ヨミト
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この記事を読めば本作がただの青春小説ではない、その奥深い魅力と本当の意味がきっと理解できるはずです。

『蹴りたい背中』の簡単なあらすじと基本情報

『蹴りたい背中』イメージ画像
イメージ画像|あらすじノオト

『蹴りたい背中』に興味を持ったけれど、まずはどんな話なのか、ネタバレなしで基本的な情報を知りたい、という方も多いでしょう。この章では次の構成順にて、重要なネタバレを避けて解説します。

  • 簡単なあらすじ(ネタバレなし)
  • 主な登場人物【オリチャンとは?】
  • 象徴的な書き出しと名言【心に刺さる】
  • 【なぜ?】芥川賞を受賞した理由を解説
  • 『蹴りたい背中』はどこで読める

簡単なあらすじ(ネタバレなし)

「蹴りたい背中」は、高校に入学したばかりのふたりの生徒、ハツとにな川の奇妙な関係を描いた青春小説です。

主人公のハツ(長谷川初実)は、クラスメイトたちと無理に仲良くすることを嫌い、自ら孤立を選ぶ少し屈折した女子生徒です。

ふたりの孤独な生徒の出会い

一方、クラスで同じく孤立している「にな川」という男子生徒がいます。彼は特定のファッションモデル「オリチャン」に心酔する、いわゆるオタクでした。

物語が動き出すきっかけは、ハツが以前そのオリチャンに偶然会ったことがある、という事実です。

オリチャンの熱狂的なファンであるにな川は、この話に強く興味を示し、ハツを自分の部屋へ招待します。ここから恋愛でも友情でもない、言葉では説明しがたいふたりの交流が始まっていきます。

このように本作は、きらびやかな青春を描いたものではありません。思春期特有の孤独感や、うまく言葉にできない感情の揺れ動きを繊細に描き出した物語といえるでしょう。

主な登場人物【オリチャンとは?】

『蹴りたい背中』イメージ画像2
イメージ画像|あらすじノオト

ここでは『蹴りたい背中』を理解する上で、欠かせない主な登場人物を紹介します。

ハツ(長谷川 初実)

本作の主人公である高校1年生の女子です。周囲を冷静に観察していますが、集団に馴染むことを嫌い、あえて孤高を装っています。その内面には、プライドと複雑な孤独感が渦巻いています。

にな川(蜷川 智)

ハツの同級生で、同じくクラスの「余り者」です。自分の世界に没頭するタイプで、ファッションモデルの「オリチャン」を熱狂的に信奉しています。彼の存在が、物語の重要な鍵となります。

絹代(小倉 絹代)

ハツの中学時代からの友人です。高校では新しい友人グループを作り、ハツとは対照的に周囲と積極的に関わろうとします。ハツに対して、一般的な視点から意見をいう重要な役割を担います。

オリチャン(佐々木 オリビア)

にな川が心酔する人気のファッションモデルです。物語に直接登場する場面は少ないですが、オリチャンの存在が本来交わることのなかった、ハツとにな川を結びつけるきっかけとなります。

つまり、この物語はオリチャンという存在なくしては始まりません。

主要登場人物のプロファイルと物語上の役割

氏名(漢字・よみ)主な属性物語上の役割
長谷川 初実(はせがわ はつみ)主人公。高校1年生、陸上部所属。自ら孤立を選ぶ。通称「ハツ」主人公/観察者:物語の視点人物。周囲を冷ややかに観察し、他者との間に壁を作ることで自尊心を保つ。彼女の屈折した内面を通して、物語の主題である孤独や苛立ちが描かれる
蜷川 智(にながわ さとし)ハツの同級生。特定のモデル「オリチャン」に心酔する熱狂的なファン。通称「にな川」プロットの駆動役:ハツと同じくクラスの〈余り者〉。彼のオリチャンへの執着が、本来交わるはずのなかったハツとの接点を生み出す。ハツの感情を揺さぶり、物語を展開させる中心的存在
小倉 絹代(おぐら きぬよ)ハツの中学時代からの友人。高校では新しい友人グループに所属対照的存在(フォイル):社会規範や集団への同調を象徴する人物。ハツとは対照的に、周囲と積極的に関わることで自分の居場所を確保する。二人の関係を「普通の恋愛」と解釈するなど、一般的な視点を提供する
佐々木 オリビア(ささき おりびあ)にな川が崇拝する人気ファッションモデル。27歳。通称「オリチャン」象徴的触媒(カタリスト):物語に直接登場する場面は少ないが、その存在が全ての始まりとなる。にな川にとっては崇拝の対象であり、ハツにとってはにな川と関わるための唯一の媒介。登場人物たちの幻想や欲望を映し出すスクリーンとして機能する

象徴的な書き出しと名言【心に刺さる】

「語録」と印字された本の表紙

本作は印象的な言葉選びによっても高く評価されています。特に、物語の冒頭部分は、主人公ハツの心理を見事に表現し、多くの読者の心をつかみました。

有名な書き出し「さびしさは鳴る。」

「さびしさは鳴る。」

この有名な一文から物語は始まります。形のない「さびしさ」という感情に、「鳴る」という聴覚の表現が用いられています。

これによりハツが感じる鋭い孤独は、ただ静かな感情ではないことがわかります。それは耳に響くほど、切実な痛みとして読者に伝わるのです。

さらに作中では、この内なる音をかき消すために、わざとプリントを破る「耳障りな音」を立てる描写が続きます。

この記事の筆者ヨミト
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ハツの孤独が、彼女自身が常に向き合わなければならない、現実的な苦しみであることが示されているのです。

タイトルにもなった一文

作中には他にもハツの複雑な心情を表す、心に残る言葉が散りばめられています。

「この、もの哀しく丸まった、無防備な背中を蹴りたい。」

タイトルにもなっているこの一文は、にな川に対するハツの歪んだ感情そのものを象徴しています。

これは単なる暴力的な衝動ではありません。自分の世界に閉じこもるにな川への苛立ちや、自分を省みない彼へのもどかしさを表しています。

そしてそれでも相手に関わりたいという、切実な願いが入り混じった言葉にできない衝動でもあるのです。

ハツの心理を表す名言

私は、余り者も嫌だけど、グループはもっと嫌だ。

この言葉は、ハツがなぜ自ら孤立を選ぶのかを端的に示しています。

ひとりでいることの寂しさを感じながらも、まわりに合わせて自分を偽る「グループ」の息苦しさには、それ以上に耐えられません。

ハツが抱えるジレンマと、繊細でプライドの高い性格がよく表れています。

「人にしてほしいことばっかりなんだ。人にやってあげたいことなんか、何一つ思い浮かばないくせに。」

普段は他者を見下すような態度をとるハツが、ふと漏らす自己分析の言葉です。

強がりな態度の裏側で、本当は誰かに認められ、受け入れられたいと願っている弱さと自己矛盾を、彼女自身が痛感している瞬間です。

この痛々しいほどの自己認識が、ハツというキャラクターに深みを与えています。

【なぜ?】芥川賞を受賞した理由を解説

『蹴りたい背中』芥川賞受賞の図解
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『蹴りたい背中』が、純文学の新人賞としてもっとも権威のある芥川賞を受賞しました。これには単なる話題性だけではなく、複数の文学的な理由が存在します。

理由① 斬新なテーマと心理描写

1つ目は思春期の心理と人間関係を、これまでにない斬新な切り口で描いた点です。

本作は友情や恋愛といったわかりやすい枠組みに収まりません。むしろ、クラスという閉鎖的な社会を舞台にしています。

そこでの言葉にならない孤立感や、他者とのいびつな距離感を、驚くほど生々しく描き切りました。

選考委員からは、この「安易なステレオタイプに陥らず、人間と人間関係そのものを描こうとする姿勢」が高く評価されています。

理由② 卓越した文章表現

卓越した文章表現も、受賞の大きな要因となりました。特に、冒頭の「さびしさは鳴る。」という一文は印象的です。

この記事の筆者ヨミト
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作品全体を象徴する『蹴りたい背中』というタイトルも、多くの選考委員から絶賛されました。

選評では「内容と見事に結びついている」「読後に快哉を叫びたくなるほど的中している」といった声が上がっています。

若者ならではの瑞々しい感性と、それを的確に言葉として定着させる確かな技術が、高く評価されたといえるでしょう。

理由③ 作者の若さと才能

作者である綿矢りささんが、当時19歳という史上最年少で受賞したことも決定的な理由です。

一部ではその若さゆえの表現に「幼さが目につく」との意見もありました。しかし大半の選考委員は、その若さでしか描けない現代的な感覚と、将来性を感じさせる圧倒的な才能を支持しました。

以上の理由から、本作は新しい時代の感性を文学として見事に描き切った作品として、歴史的な受賞に至ったのです。

【補足】第130回芥川賞選考委員コメント要約

選考委員立場主な評価・批評内容
宮本 輝支持「確かに十九歳の世界はまだまだ狭い」としつつも、その才能に「伸びゆく力」を感じ、将来性を高く評価した
古井 由吉支持タイトルが「快哉をとなえたくなるほど、的中している」と絶賛。作品が読後に残す「戦慄」を評価した
黒井 千次支持「内容と題名の美事に結びつく例は稀」とタイトルを称賛。「背中を蹴るという行為」の多義的な広がりを指摘した
池澤 夏樹支持「高校における異物排除のメカニズムを正確に書く伎倆」を評価し、それが「小説の王道」に繋がっているとした
山田 詠美支持言葉にするのが難しい「もどかしい気持」に挑戦する「健気さ」に心惹かれたと評価した
河野 多恵子支持登場人物が「まさしく高校一年生である実感」に満ちている点を評価。若さをひけらかさない「勁い」視力を称賛した
高樹 のぶ子支持作者の「醒めた認識」と、流行に流されず「人間と人間関係を描こうとしている」姿勢を高く評価した
三浦 哲郎批判文章が「不可解」で「素直に頭に入ってこなかった」と指摘。「幼さばかりが目につく」と断じた

『蹴りたい背中』はどこで読める

単行本と文庫本

『蹴りたい背中』は、多くの方法で読むことができます。ご自身の読書スタイルに合わせて選ぶのが良いでしょう。

電子書籍や読み放題サービス

手軽に読みたい方には電子書籍がおすすめです。AmazonのKindleストアやコミックシーモアといった主要な電子書籍サイトで購入できます。

価格もワンコイン程度で、購入後すぐに読み始められるのがメリットです。

また月額制の読み放題サービスを、利用するのもひとつの方法といえます。例えば、Amazonの「Kindle Unlimited」では、対象作品になっていれば追加料金なしで読むことが可能です。

さらに「聴く読書」という選択肢もあります。

Amazonのオーディオブックサービス「Audible」では、プロのナレーターが朗読した音声で物語を楽しめるでしょう。

移動中や家事をしながらでも読書ができるため、時間がない方にも適しています。

この記事の筆者ヨミト
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無料体験期間を利用すれば、費用をかけずに試すこともできます。

紙の本や図書館

もちろん、紙の本でじっくり読みたい方は、全国の書店やオンライン書店で文庫本を購入できます。図書館で借りるという方法もありますので、お近くの図書館の蔵書を確認してみるのも良いでしょう。

ネタバレで知る『蹴りたい背中』のあらすじと考察

『蹴りたい背中』イメージ画像4
イメージ画像|あらすじノオト

ここからは物語の核心に触れるネタバレを含みます。 すでに作品を読んだ方や、結末までの詳しいあらすじを知りたい方は、ぜひ読み進めてください。

次の構成にて、この物語をさらに深日りしていきます。

  • 詳細なあらすじ(完全ネタバレ)
  • 結末を深掘り|ハツはなぜ背中を蹴らなかった?
  • 読者の感想・評価まとめ「気持ち悪い」と感じる理由
  • 『蹴りたい背中』に関するFAQ

詳細なあらすじ(完全ネタバレ)

高校に入学して2ヶ月、主人公のハツはクラスの集団に馴染むことを嫌い、自ら孤独を選んでいました。

ある日の理科の実験で、同じくクラスで孤立していた男子生徒「にな川」と一緒になります。

にな川は授業に集中せず、女性ファッション誌を読んでいました。その雑誌に載っていたモデル「オリチャン」にハツが見覚えがある、と口にしたことから、ふたりの奇妙な交流が始まります。

にな川の部屋と最初の衝動

にな川はオリチャンの熱狂的なファンであり、ハツを自分の部屋へ招待します。

そこにはオリチャン関連のグッズが詰め込まれた「ファンシーケース」があり、にな川は彼女への想いを熱く語るのでした。

ハツは自分が「オリチャンに会ったことがある人物」、としてしか見られていないと感じながらも、彼相手なら気楽に話せることに気づきます。

しかしある日、ハツはにな川の部屋で彼が作ったオリチャンの顔と少女の裸体を貼り合わせた卑猥な写真を見つけてしまいます。

その異様さに強烈な嫌悪感を抱いたハツは、ラジオに夢中なにな川の無防備な背中を見てしまいます。そして「痛がるにな川が見たい」という衝動に駆られ、強く蹴りつけるのでした。

ライブと関係性の変化

その後、にな川が学校を休んだため、ハツはお見舞いに行きます。

にな川はオリチャンのライブチケットを買うために徹夜で並び、風邪をひいただけだと判明します。

このときハツはにな川の乾いた唇を衝動的に舐めるという、自身でも理解しがたい行動をとってしまいます。

そしてそのライブには友人の絹代も誘い、三人で参加することになりました。

ライブ会場で熱狂するファンや、必死の形相でオリチャンを見つめるにな川の姿。さらにふたりの関係を、単純な恋だと解釈する絹代を前に、ハツは強い疎外感を覚えます。

ライブ後、にな川は出待ちでオリチャンに近づこうとしますが、警備員に阻まれ、深く傷つきました。

物語の結末

帰りのバスを逃した三人は、その夜をにな川の家で過ごします。深夜、眠れないハツはベランダでうずくまるにな川を見つけます。

にな川は本物のオリチャンを前にして、「今までで一番遠くに感じた」と、自身の幻想が砕かれたことを静かに語るのでした。

その哀れな背中を見て、ハツは再び「蹴りたい」という強い衝動を覚えます。しかし今度は、にな川の背中にそっとつま先を押し当てるだけでした。

押し当てられた感触ににな川が振り返りますが、ハツは知らないふりをしてそっぽを向く、という場面で物語は幕を閉じます。

結末を深掘り|ハツはなぜ背中を蹴らなかった?

人差し指(チェックのイメージ)

物語のラストシーンで、ハツは以前のようににな川の背中を強く蹴ることはしませんでした。

物語の中盤、ハツは嫌悪感から衝動的に彼の背中を蹴りましたが、最後の行動はそれとはまったく意味合いが異なります。この変化には、ふたりの関係性が次の段階へ移ったことが表れています。

幻想の終わりと新たな感情

まず重要なのは、ハツが行動を起こす直前に、にな川が自身の本音を吐露した点です。

ライブで本物のオリチャンを目の当たりにし、「今までで一番遠くに感じた」と語るにな川。彼は自身の幻想が、破れた瞬間をさらけ出しました。

これは彼が初めて自分の内なる世界から一歩踏み出し、ハツと同じように「どうしようもない現実」と向き合った瞬間といえます。

ハツは、そんな無防備で哀れな姿を見せたにな川に対し、以前のような純粋な嫌悪や軽蔑とは異なる感情を抱いたと考えられます。

作中でも「愛しさよりも、もっと強い気持ちで」と表現されているように、その感情は単純な言葉では言い表せません。もはやにな川は、一方的に見下せる対象ではなくなったのです。

「蹴る」から「触れる」へ

このためハツの最後の行動は、「蹴る」という暴力的なものではなく、つま先をそっと押し当てるだけの、いわば存在を確かめるような行為に変わったのです。

それは、言葉でのコミュニケーションが苦手なハツなりの、「あなたの今の気持ちを、私は見ている」という静かな意思表示だったのかもしれません。

強く蹴らないことで、ふたりのいびつな関係が破壊されるのではなく、新たな形で続く可能性を読者に感じさせ、物語は幕を閉じます。

読者の感想・評価まとめ「気持ち悪い」と感じる理由

「評価」という文字を虫眼鏡で見ている

『蹴りたい背中』を読んだ人の中には、物語に対して「気持ち悪い」や「不快だ」といった感想を抱くことがあります。しかしこの感覚こそが、本作が持つリアリティの証しでもあります。

登場人物たちの生々しい行動

気持ち悪いという感情が生まれる主な理由として、まず登場人物たちの具体的な行動が挙げられます。

例えば、にな川がオリチャンの顔写真と少女の裸体を貼り合わせた「作品」を作っていたりします。またハツがお見舞いで訪れた際に、にな川の乾いた唇を衝動的に舐めたりする場面です。

このような行動は、一般的な友情や恋愛の文脈から外れており、読者に生理的な嫌悪や居心地の悪さを感じさせることがあります。

思春期のリアルな心理描写

また本作は思春期特有の、白黒つけられないアンビバレントな感情を巧みに描いています。

ハツがにな川に対して抱く「哀れに思う気持ち」と「もっと傷つけたいという激情」。これらが同居する心理は理解はできても、共感するのは難しいかもしれません。

このように、綺麗ごとではない人間の内面を率直に描き出すことで、読者は目をそむけたくなるような感覚を覚えるのです。

言ってしまえば、本作が「気持ち悪い」と感じられるのは、思春期の不安定な心を作者が容赦なく、極めてリアルに描き出しているからです。

その不快感や痛みこそが、この作品の持つ忘れがたい文学的な魅力のひとつといえるのです。

『蹴りたい背中』に関するFAQ

「Q&A」と印字された木のブロック

Q1. 映画化やドラマ化の予定はありますか?

過去に一度だけ、2007年に日本テレビ系の『あらすじで楽しむ世界名作劇場』という番組内でドラマ化されたことがあります。

しかし映画化に関する公式な情報や、今後の再映像化の予定は2025年7月現在、発表されていません。そのため現時点では、原作の小説で物語に触れるのが主な方法となります。

Q2. 作者の綿矢りささんは「天才」なのですか?

「天才」という評価は主観的なものですが、綿矢りささんがそう呼ばれるのには明確な理由があります。

この記事の筆者ヨミト
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本作『蹴りたい背中』で、史上最年少となる19歳で芥川賞を受賞したことは、文学史に残る出来事でした。

この記録は未だに破られていません。また、デビュー作『インストール』でも高校在学中に文藝賞を受賞しており、10代の頃からその才能は高く評価されていました。

このように若くして、大きな文学賞を次々と受賞した実績と、思春期の繊細な感情を的確に表現する独自の文体が、「天才」と呼ばれるゆえんといえるでしょう。

Q3. タイトル『蹴りたい背中』の意味は?

本作タイトルは、主人公ハツが、にな川に対して抱く一言ではいい表せない複雑な感情を象徴しています。

これは単なる暴力的な衝動ではありません。言葉にできない苛立ちや、自分のことを見てくれない相手へのもどかしさ、そして「関わりたい」と願う気持ちが歪んだ形で表れたものと考えられます。

作中では「愛しさよりも、もっと強い気持ち」と表現されています。友情や恋愛といった単純な言葉で割り切れない、思春期特有のアンバランスな衝動がこのタイトルには込められているのです。

Q4. 無料で読む方法はありますか?

いくつかの方法で、実質的に無料で作品に触れることが可能です。

1つ目の方法は、お住まいの地域の公共図書館を利用することです。多くの図書館で所蔵されている可能性が高いため、蔵書検索で確認してみてください。

この記事の筆者ヨミト
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また月額制サービスの無料体験を利用する方法もあります。

Amazonの「Kindle Unlimited」や「Audible(オーディオブック)」では、無料体験期間中に読み放題・聴き放題の対象になっていれば、追加料金なしで楽しむことができます。

ただしサービスの対象状況は変更される場合があるため、登録前に公式サイトで確認することをおすすめします。

『蹴りたい背中』のあらすじと要点のまとめ

黒板に「まとめ」の文字

『蹴りたい背中』は、単なるあらすじでは捉えきれない、思春期のどうしようもない孤独と、言葉にならないコミュニケーションの形を描いた物語です。

最後にポイントを箇条書きでまとめます。

  • 主人公ハツとにな川、ふたりの高校生の孤独と奇妙な関係を描く物語である
  • 主人公ハツは集団に馴染むことを嫌い、自ら孤立を選ぶ少女である
  • にな川はモデル「オリチャン」に心酔するオタクの男子生徒である
  • 物語は「オリチャン」という共通の接点をきっかけに動き出す
  • ハツはにな川の無防備な背中に「蹴りたい」という衝動を抱く
  • 実際に一度、嫌悪感から彼の背中を強く蹴る場面がある
  • オリチャンのライブで、にな川は偶像と現実との距離を痛感する
  • 結末ではハツは強く蹴らず、関係性の変化をうかがわせる
  • 「さびしさは鳴る」という象徴的な書き出しで知られる
  • 作者の綿矢りさが19歳で芥川賞を最年少受賞した作品である
  • 登場人物の生々しい心理描写に「気持ち悪い」と感じる読者もいる
  • その不快感は思春期のリアルを容赦なく描いた結果といえる
  • タイトルは愛情や憎しみで割り切れない複雑な感情の象徴である

最後までお読みいただき、ありがとうございました。この記事を書いた書評ライター「ヨミト」のプロフィールはこちらです。

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