この記事でわかること
✓ 作品の基本的な設定、中心となるテーマ、主な登場人物
✓ 物語の大まかな流れ（ネタバレなし）と詳細な展開（ネタバレあり）
✓ 作品全体の雰囲気や感動するポイント、読者からの主な評価
✓ 作者の情報や書籍形態（単行本・文庫版）の違い
「もし、亡くなった人が最後に願ったことを知ることができたら…？」
『52ヘルツのクジラたち』の町田そのこが描く、喪失と再生の物語『ぎょらん』。多くの読者の涙を誘う本作は、死者が残すという謎の珠「ぎょらん」をめぐる連作短編集です。
「ぎょらん」は真実を伝えるのか、それとも心を映す鏡なのか？
ここででは、あらすじ（ネタバレ有無）や登場人物、核心考察、書籍情報まで、『ぎょらん』の魅力を徹底解説。
読み終えれば、きっと温かい涙と共に「今」を生きる力を感じるはずです。
『ぎょらん』のあらすじと基本情報
まずはこの感動的な物語の骨子となる基本情報から解説します。
作品の概要や主な登場人物、ネタバレなしのあらすじなどを確認していきましょう。
町田そのこ『ぎょらん』とは？基本情報まとめ
『ぎょらん』は、2021年に『52ヘルツのクジラたち』で本屋大賞を受賞した町田そのこさんによる小説です。
人が死ぬ際に残すと言われる赤い珠「ぎょらん」をめぐります。これは、喪失と再生を描いた7編からなる連作短編集となっています。
独特な設定と物語の舞台
この作品が多くの読者を惹きつける理由のひとつに、その独特な設定があります。「ぎょらん」を噛み潰すと、死者の最期の願いがわかるという都市伝説のような存在が、物語の核を成しているのです。
地方都市の葬儀社を舞台に、様々な事情を抱えた人々の人生が「ぎょらん」を通じて交差していきます。
書籍形態と価格
書籍は、まず2018年10月に新潮社から単行本として刊行されました。その後、読者からの熱い支持を受け、2023年6月には書き下ろし短編「赤はこれからも」を加えた文庫版が新潮文庫から発売されています。
文庫版は500ページを超えるボリュームがあり、読み応えも十分でしょう。
定価は単行本が1,815円（税込）、文庫本が935円（税込）です。
死という重いテーマを扱いながらも、温かく優しい筆致で描かれており、町田そのこさんの魅力が詰まった一冊といえます。
物語を彩る主な登場人物を紹介
『ぎょらん』の物語を深く、そして魅力的にしているのは、個性豊かな登場人物たちです。彼らの抱える過去や葛藤が、物語にリアリティと感動を与えています。
物語の中心人物｜御舟朱鷺
特に物語の中心となるのが、御舟朱鷺（みふねとき）という青年です。彼は、親友の死をきっかけに見た「ぎょらん」によって心に深い傷を負いました。
そして長年引きこもり生活を送っていました。しかし、ある出来事を機に地元の葬儀社「天幸社」で働き始め、社会との関わりを取り戻そうとします。
「ぎょらん」の真相を探求する彼の視点を通して、物語は進んでいきます。
朱鷺を取り巻く人々
朱鷺のまわりには様々な人物が登場します。
例えば、朱鷺の妹である御舟華子（みふねはなこ）は、兄とは対照的に現実的ながら、彼を気遣う一面も持っています。
また朱鷺が勤める葬儀社の先輩である相原千帆（あいはらちほ）や、納棺師の石井春子（いしいはるこ）など、葬儀の現場で死と向き合う人々も重要な役割を担います。
さらに、朱鷺の引きこもりの原因となった親友・蘇芳（すおう）や、同級生の笹本小紅（ささもと こべに）、斉木葉子（さいき ようこ）といった、過去に関わりのあった人物たちも登場します。
これらの者らとのエピソードも描かれており、物語に深みを与えています。
これらの登場人物たちが織りなす人間模様が、本作の大きな魅力のひとつです。
あらすじ｜ネタバレなし
『ぎょらん』は人が亡くなる際に残すといわれる、謎めいた赤い珠「ぎょらん」を巡る、感動的な連作短編集です。
物語の中心には、過去の出来事から引きこもりとなった青年・御舟朱鷺（みふねとき）がいます。
「ぎょらん」を追う主人公
朱鷺は、親友の死に際して「ぎょらん」を目にしたという経験から、その正体をずっと探し続けています。
彼はやがて地元の葬儀社で働き始め、多くの死と、そして遺された人々の様々な想いに触れることになります。
遺された人々と「ぎょらん」
「ぎょらん」は、死者の最後の願いを伝えるという都市伝説のような存在です。それを手にしたとき、遺された人々は何を知り、どのように受け止めるのでしょうか。
この物語は朱鷺をはじめとする登場人物たちが、大切な人を失った悲しみや後悔と向き合う様子を描いています。
ときには「ぎょらん」の存在に翻弄されながらも、少しずつ前を向いて生きていこうとする姿が描かれます。
各短編で異なる人々のドラマが展開されつつ、全体を通して朱鷺の成長と「ぎょらん」の謎が解き明かされていく構成です。死を扱いながらも、温かい涙を誘う、再生の物語といえるでしょう。
「ぎょらん」は実在する？物語の鍵となる珠
『ぎょらん』というタイトルにもなっているこの珠は、物語全体の鍵を握る非常に重要な要素です。設定としては、人が死ぬ間際に体から生み出される、イクラのような見た目の赤い珠とされています。
そしてこれを口にする、あるいは噛み潰すことで、死者が最後に願ったことや抱いていた想いが、わかると言い伝えられています。
曖昧な存在としての「ぎょらん」
しかし作中での「ぎょらん」の扱いは一貫していません。
ある人物は確かに見たと語りますが、別の人物には見えなかったり、伝わり方も様々であったりします。
そのため、「ぎょらんは本当に存在するのか？」という疑問は、物語を読む上で常に付きまとうのです。
「ぎょらん」に込められた意味とは
物語が進むにつれて、この珠が単なる物理的な存在ではない可能性も示唆されます。登場人物たちのレビューや考察のなかには、次のような解釈も見られます。
「ぎょらんとは、死者に対する遺された者の『こうであってほしい』という願いや、『こう思っていたに違いない』という思い込みが結晶化したものではないか」。
つまり、「ぎょらん」を通して見えるものは、死者の真意というよりも、それを受け取る側の心の状態を映し出しているのかもしれません。
このように、「ぎょらん」の実在性をあえて曖昧にすることで、物語はより深く、読者それぞれの解釈を促すものとなっています。
書籍情報｜文庫本と単行本について
町田そのこさんの小説『ぎょらん』は、現在ふたつの形態で入手可能です。
どちらを選ぶかによって価格や収録内容が異なるため、購入を検討する際の参考にしてください。出版社はいずれも新潮社です。
最初に刊行された単行本
最初に刊行されたのは単行本です。こちらは2018年10月31日に発売され、定価は1,815円（税込）となります。収録されているのは、物語の核となる6編の連作短編です。
書き下ろしを加えた文庫版
一方、文庫本は2023年6月26日に新潮文庫から発売されました。定価は935円（税込）であり、単行本に比べて手軽に手に取れる価格設定が魅力といえるでしょう。
ページ数は500ページを超える大ボリュームです。文庫版の大きな特徴は、単行本収録の6編に加えて、書き下ろし短編「赤はこれからも」が新たに追加されている点です。
この書き下ろしエピソードは、コロナ禍における別れなども描かれています。読む際にはその点留意が必要かもしれません。
ちなみに文庫版の解説は、タレントの壇蜜さんが担当されています。
物語を余すことなく楽しみたい方や、携帯して読みたい方には文庫版が適しているかもしれません。
深掘り解説『ぎょらん』あらすじと読者の声
物語の概要を掴んだところで、ここからはさらに深く『ぎょらん』の世界を探求していきましょう。
ネタバレを含む詳細なあらすじや、作品に込められたメッセージ、読者の感想など、多角的に解説していきます。
詳細なあらすじ解説（ネタバレあり）
ここからは、物語の結末や核心に触れる内容を含みます。まだ作品を読んでいない方、ネタバレを避けたい方はご注意ください。
主人公・朱鷺の過去とトラウマ
物語は主人公・御舟朱鷺が、高校時代の親友・蘇芳（すおう）の自死に深く関わっています。
朱鷺は蘇芳が死の間際に残したとされる「ぎょらん」を口にしました。そこから自分への激しい憎しみを感じ取ったと思い込みます。
この経験がトラウマとなり、彼は大学を中退し、長年自宅に引きこもることになりました。
葬儀社での出会いと「ぎょらん」を巡る人々
しかし母親の体調悪化などをきっかけに、朱鷺は地元の葬儀社「天幸社」で働き始めます。そこで彼は様々な死のかたちと、遺された人々の複雑な感情に触れていくことになります。
例えば、保育園の管理下で息子・真佑（まゆ）を亡くした納棺師の石井春子。そしてその事故に関わった、元保育士・浜崎喜代の再会が描かれます。
あるいは、朱鷺の同級生であった笹本小紅と斉木葉子の間にあった歪んだ友情。さらに葉子が母親に殺害されたという衝撃的な過去も明かされます。
これらのエピソードを通して、死がもたらす後悔や罪悪感、そして「ぎょらん」への渇望が描かれます。
明らかになる真実と「ぎょらん」の正体
物語が進むなかで、蘇芳が自死に至った背景も明らかになります。彼は葉子に想いを寄せていました。
しかし葉子は、朱鷺に好意を寄せている（と見せかけていた）ため、親友である朱鷺への嫉妬心に苦しんでいたのです。
そして物語の核心である「ぎょらん」の正体についても、徐々に輪郭が見えてきます。
幻の漫画『ぎょらん』を描いたのは、息子を亡くした石井春子の夫・石井芳年でした。
彼は息子から憎しみの「ぎょらん」を受け取ったと感じ、その体験をもとに漫画を描いたのです。しかし終盤で朱鷺は、ある可能性に気づきます。
病床の母や石井春子との対話を通じて、「ぎょらん」とは死者の純粋な想いそのものではないことに。
むしろ遺された側の「こうであってほしい」「こうに違いない」という強い願いや罪悪感、後悔といった感情が映し出されたり、結晶化したりしたものであるかもしれない、と。
朱鷺が蘇芳から感じ取った「憎しみ」も、実は朱鷺自身の罪悪感が作り出した幻影だった可能性が示唆されます。
未来への歩みと文庫版追加エピソード
最終的に朱鷺は母親の死をも乗り越えます。
「ぎょらん」という不確かなものに囚われるのではなく、今を生きる人々との関わりのなかで未来へ歩み出すことを決意します。
文庫版書き下ろしの「赤はこれからも」では、コロナ禍で突然姉を亡くし、十分な別れもできなかった妹・美弥の後悔と再生が描かれます。
ここでもまた、「ぎょらん」に頼らずとも故人を想い、前を向く姿が示唆されています。
解説・考察｜作品が伝えるメッセージ
『ぎょらん』は、死者が残すという不思議な珠を巡る物語ですが、単なるファンタジーとして終わる作品ではありません。
この物語は私たちが避けては通れない「死」というテーマと、真摯に向き合っています。そして遺された人々が、どのように悲しみや後悔を乗り越え、再び生きていくのかを深く描いています。
「死」との向き合い方
作品を通して伝わってくる重要なメッセージのひとつは、「死」との向き合い方です。
後悔のない死別はほとんどないという現実を示しつつ、それでも人は故人との関係性を見つめ直す必要があります。
自分なりの形で死を受け入れていく必要があると語りかけているようです。
物語の中心となる「ぎょらん」は、その過程で重要な役割を果たします。
前述のとおり、この珠は死者の客観的な想いを伝えるというより、遺された者の主観的な感情や願い、罪悪感を映し出す鏡のような存在として描かれています。
この設定により、登場人物たちは自身の内面と深く向き合うことを余儀なくされるのです。
再生への希望と人との繋がり
また本作は再生への希望も力強く描いています。
「ぎょらん」に翻弄される人物もいますが、最終的に彼らを絶望から救い出し、立ち上がらせるのは、同じ世界に生きる他の人々との繋がりです。
どんなに深い悲しみのなかにいても、他者の支えや自身の決意によって人は前を向ける、という温かいメッセージが込められていると解釈できます。
死に囚われるのではなく、失った悲しみを抱えながらも「今」を生きることの大切さを、物語は教えてくれるでしょう。
心に響く名言・心に残る言葉を紹介
『ぎょらん』には、読者の心に深く刻まれるような、印象的な言葉やセリフが数多く登場します。
それらは登場人物たちの切実な想いや、人生における大切な気づきを表現しており、物語の感動を一層引き立てています。
人との支え合いを伝える言葉
特に多くの読者の共感を呼んだ言葉のひとつに、主人公・朱鷺の母親が遺すメッセージがあります。
「時に誰かの救いとなり、時に救われて、笑って生きて下さい。あなたたちは、それができる」
これは人と人との支え合いのなかで、生きていくことの尊さをシンプルに、しかし力強く伝えています。作品全体のテーマを象徴する言葉といえるかもしれません。
心に寄り添う優しい言葉
また苦しみのなかにいる人へ寄り添うような、次の優しい言葉も印象的です。
「張り詰めた力を抜いて息をつくことは、逃げやズルじゃないよ」
頑張りすぎてしまう現代人にとって、心に沁みる一言ではないでしょうか。
真実や人間関係についての洞察
「ぎょらん」の解釈にも繋がる、
「意味なんて、自分で好きに見いだしていいんだそれが自分にとっての真実になるんだよ」
この言葉は、物事の捉え方次第で世界が変わることを示唆します。
他にも人間関係の本質を鋭く突いた、次のセリフがあります。
「あなたの大好きって一体何？ 便利と同じ意味なんでしょ？ 」
さらに、死別の悲しみと生者の繋がりの重要性を説く洞察に満ちた言葉など、ハッとさせられる表現が随所に見られます。
これらの言葉に触れることで、読者は自身の生き方や人との関わり方について、改めて考えるきっかけを得られるはずです。
感想・レビューまとめ｜読者の評価は？
『ぎょらん』は、多くの読者から深い感動と共感を呼び、総じて高い評価を得ている作品です。特に「泣ける」という感想が圧倒的に多く寄せられています。
「読みながら何度も涙腺が緩んだ」「全編で号泣した」「嗚咽した」といった声がレビューサイトやブログで数多く見受けられます。
感動と共感の理由
読者が涙する理由としては、死という普遍的なテーマを扱いながら、遺された人々の後悔や葛藤、そして再生への道のりを非常に丁寧に描いている点が挙げられます。
登場人物たちの心情に深く感情移入し、「自分の経験と重なった」「大切な人を思い出した」と感じる読者も少なくありません。
また「死について深く考えさせられた」、「一日一日を大切に生きたいと思った」など、自身の生き方や死生観を見つめ直すきっかけになったという声も多数あります。
設定や登場人物への評価
物語の中心となる「ぎょらん」という設定も、「本当にありそう」「切ないけれど興味深い」と読者の心を掴んでいます。
その正体が曖昧である点も、かえって想像力を刺激し、物語に深みを与えていると好意的に受け止められています。
主人公・朱鷺をはじめとする登場人物たちの人間味あふれる描写や、彼らの成長を見守りたいという感想も多く見られます。
一部の意見
一方で一部の読者からは、「登場人物の名前が少し特殊で覚えにくい」という意見や、「死を扱うテーマだけに、読んでいて辛くなる部分もある」といった感想も聞かれます。
しかし全体としては、悲しみのなかにも温かさや希望を感じさせる物語として、多くの読者の心に残る一冊となっているようです。
本屋大賞作家・町田そのこが描く死生観
『ぎょらん』は、『52ヘルツのクジラたち』で本屋大賞を受賞した作家・町田そのこさんの魅力が凝縮された作品のひとつです。
町田さんの作品に一貫して流れる「喪失と再生」、そして「困難のなかにある希望」といったテーマがあります。
本作ではこれらのテーマが「死」というフィルターを通して色濃く描かれています。
優しさとリアリティ
町田さんの描く死生観の特徴として、まず挙げられるのはその優しい眼差しです。死別という極めて重く、辛い出来事を扱いながらも、決して突き放すことはありません。
登場人物たちの痛みに寄り添い、温かい筆致で物語を紡いでいきます。
レビューでも「優しい世界観」「温かい言葉で包み込んでくれる」といった評価が多く、悲しいだけでなく、読後に不思議な温もりを感じさせる力を持っています。
しかしただ優しいだけではありません。
物語のなかでは、思うようにいかない現実や人間の弱さ、時には醜さといった側面もきちんと描かれています。
きれいごとだけではないリアルな描写があるからこそ、登場人物たちが悲しみを乗り越え、再生していく姿がより一層、読者の胸を打つのです。
「繋がり」と未来への視点
また町田さんの作品では、他者との「繋がり」が重要な要素として描かれることが多く、『ぎょらん』も例外ではありません。
死者との繋がりを求める一方で、最終的に人を絶望から救い、前へと歩ませるのは、今を共に生きる人々との関わりである、というメッセージが読み取れます。
死に囚われすぎず、遺された者がどう生きていくか、という未来への視点が、町田さんの描く死生観の根幹にあるのかもしれません。
本作は町田さんの作家としての深い洞察と、人間への温かいまなざしを感じられる、珠玉の作品といえるでしょう。
『ぎょらん』あらすじと重要ポイント総括
謎の珠「ぎょらん」を通して描かれるのは喪失と再生、そして人との繋がりの温かさ。
悲しみを乗り越え、「今」を生きることの大切さを教えてくれる感動作です。ぜひ手に取り、そのメッセージを感じてください。
それでは最後にポイントを箇条書きでまとめます。
- 町田そのこによる死と再生を描く連作短編集
- 死者が残す珠「ぎょらん」を巡る物語
- 「ぎょらん」は死者の願いを映すという都市伝説が鍵。
- 遺された者の主観的な想いが「ぎょらん」の正体とも解釈されている
- 主人公は元引きこもりの青年・御舟朱鷺
- 朱鷺が葬儀社で働きながら成長し謎を追う構成になっている
- 地方都市の葬儀社が主な舞台。
- 単行本と文庫版があり、文庫には書き下ろしが追加されている
- 読者からは「泣ける」「感動した」との評価が多数寄せられている
- 生き方や死生観について深く考えさせられる作品である
- 心に響く名言や印象的な言葉が多く登場する
- 作者特有の優しい筆致とリアルな人間描写が光る作品である
最後まで見ていただき、ありがとうございました。