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この記事でわかること
✓ ネタバレの有無を選びながら、物語の始まりから結末までの詳しい筋書き
✓ 物語の中心となる3人の女性登場人物、それぞれの背景や抱える悩み
✓ 作品の深いテーマや独特の文体、賛否両論を呼んだ芥川賞受賞の背景
✓ 続編『夏物語』との関係性や、作者・川上未映子の他の代表作に関する知識
川上未映子さんの代表作にして芥川賞受賞作『乳と卵』。タイトルは知っているけれど、一体どんな物語なのでしょうか。
「あらすじを読んでから本を手に取るか決めたい」
「でも、いきなり結末まで知ってしまうのは避けたい…」
「登場人物や作品の評価もあわせて知りたい」
そんなあなたのために、この記事はあります。

この記事では、『乳と卵』のあらすじをネタバレあり・なしの両方で徹底解説。
さらに物語の鍵を握る登場人物から、物議を醸した深いテーマ、賛否両論の感想、作者・川上未映子さんの背景まで、この作品について知りたい情報を網羅しました。
まずはネタバレなしのあらすじから、安心して読み進めてみてください。きっと、『乳と卵』の奥深さに引き込まれるはずです。
小説『乳と卵』のあらすじと主な登場人物

まずは以下の構成順にて、物語の骨格となるあらすじと登場人物について解説します。ネタバレの有無も明記しているので、ご自身の読書スタイルに合わせて読み進めてください。
- 小説『乳と卵』の基本情報
- 大まかなあらすじ(ネタバレなし)
- 主な登場人物を紹介
- より詳しいあらすじと結末(ネタバレあり)
小説『乳と卵』の基本情報
『乳と卵(読み:ちちとらん)』は、作家・川上未映子さんによる第138回芥川賞受賞作です。女性が抱える身体や心の問題を鮮烈に描き出し、発表当時に大きな話題を呼びました。
この小説は2007年に文芸雑誌『文學界』で発表されます。そして翌2008年に芥川賞を受賞したことで、川上さんの名前を広く知らしめることになりました。

物語は主に女性たちの視点で進み、彼女たちの非常にリアルな悩みが描かれているのが特徴です。
ちなみに本作の登場人物や、テーマをさらに発展させた長編小説として、後に『夏物語』が刊行されています。
作品の概要を以下にまとめました。
項目 | 内容 |
著者 | 川上 未映子(かわかみ みえこ) |
発表年 | 2007年 |
主な受賞歴 | 第138回 芥川龍之介賞 |
ジャンル | 純文学 |
関連作品 | 『夏物語』 |
独特の文体と注意点
これから読む方が注意しておきたい点があります。それは句読点が少なく、大阪弁が多用される独特の文体です。
人によっては最初は少し読みにくいと感じるかもしれません。しかしこのリズム感が、物語の持つ空気感や登場人物の感情を効果的に表現しており、作品の大きな魅力のひとつになっています。
このように『乳と卵』は、文学的に非常に高く評価されており、多くの読者に衝撃と共感を与えた作品です。
大まかなあらすじ(ネタバレなし)

『乳と卵』は東京で暮らす主人公「夏子」のもとに、大阪から姉の「巻子」とその娘「緑子」が訪ねてくる物語です。
描かれるのは夏の3日間の出来事になります。一見すると普通の家族の再会のように思えますが、姉と姪はそれぞれに大きな悩みを抱えている状況です。
物語の大きな軸となるのは、姉・巻子が抱く「豊胸手術を受けたい」という強い願望でしょう。巻子は手術を受けるために、わざわざ大阪から上京してきました。
一方で思春期の姪・緑子は、なぜか半年も前から母親と話すことをやめてしまいます。そしてノートを使った筆談でしか、意思を伝えません。
物語の中心となる3つの問い
このため物語は、以下の3つの問いを追いかける形で進んでいきます。
- 姉の巻子は、なぜそこまでして自分の身体を変えたいと願うのか
- 姪の緑子が心に秘めた、言葉にできない悩みや葛藤の正体は何か
- 主人公の夏子は、そんなふたりとの奇妙な共同生活を通して何を感じるのか
女性が抱える身体へのコンプレックスや、少女期の繊細な心の揺れが、ときに切実に、ときに滑稽に描かれていきます。結末を知らないまま、ぜひ登場人物たちの心の行方を追いかけてみてください。
主な登場人物を紹介と相関図

『乳と卵』の物語は、主に3人の女性を中心に展開します。それぞれが異なる世代の悩みや価値観を持っており、彼女たちの関係性が物語の重要な鍵を握っています。
夏子(なつこ)
主人公であり、物語の語り手です。東京でひとり暮らしをしていて、小説家を目指しています。大阪からやってきた姉と姪の奇妙な共同生活を、少し引いた視点から冷静に見つめます。
巻子(まきこ)
夏子の姉で、39歳のシングルマザーです。大阪の繁華街でホステスとして働き、女手一つで娘を育てています。出産後に変化した自身の身体にコンプレックスを抱いており、「豊胸手術」を受けることに強く執着するようになります。
緑子(みどりこ)
巻子のひとり娘で小学生です。思春期まっただなかで、自身の身体が女性へと変化していくことに強い嫌悪感を抱いています。
半年ほど前から母親と話すことを拒否し、ノートに文字を書く「筆談」でしかコミュニケーションを取りません。
このように、見た目を変えようとする母・巻子と、身体の変化そのものを拒絶する娘・緑子は、まさに対照的な悩みを抱えています。
このふたりの間に立つ夏子の視点を通して、物語はより一層深みを増していきます。
より詳しいあらすじと結末(ネタバレあり)

【ご注意ください】この先は、物語の核心部分と結末に触れています。まだ作品を読んでいない方、結末を知りたくない方はご注意ください。
物語の序盤|すれ違う母娘
前述の通り、物語は豊胸手術を望む姉・巻子と、筆談を続ける姪・緑子との奇妙な共同生活から始まります。
例えば銭湯のシーンでは、巻子が他の女性の胸を執拗に観察し、自分の胸へのコンプレックスを露わにします。
その一方で、緑子は女性の身体が変化していくこと自体に強い嫌悪感を抱いていることが示唆されます。
こうして、ふたりの間の見えない緊張感が高まっていくのです。
物語がクライマックスへと向かうのは、滞在2日目の夜になります。豊胸のカウンセリングに出かけたはずの巻子が、夜遅くなっても帰ってきません。
緑子は「母が自分の知らないところで身体を傷つけるのではないか」と、これまでにないほど不安を募らせるのです。
クライマックス|感情の爆発と卵
そこへようやく帰ってきた巻子はひどく酔っており、離婚した元夫に会いに行っていたことを告白します。
そして「ひとりで生まれてきてひとりで生きてるみたいな顔してさ」といった言葉で、喋らない緑子への日頃の不満をぶつけ始めました。これまで感情を押し殺してきた緑子の心が、ついに限界を超えます。
緑子は半年間の沈黙を破り、「お母さん」と叫びました。そして「ほんまのことをゆうてや」と泣きじゃくりながら、台所にあった生卵を自らの頭に強く叩きつけます。
この「ほんまのこと」という問いには、彼女の根源的な苦しみが込められています。それは「私を産んで後悔していないか?」、「女性として生まれることは良いことなのか?」という魂の叫びです。
その怒りと悲しみの矛先を相手ではなく自分に向けた痛々しい行動に対し、母である巻子もまた、自分の頭に卵を叩きつけて応えました。

ふたりは卵まみれになりながら、言葉にならないお互いの痛み、愛情そのものを激しくぶつけ合ったのです。
結末|静かな余韻
この出来事を経て、母と娘の関係には決定的な変化が訪れます。翌朝、巻子は結局、豊胸手術を受けることなく、緑子とともに大阪へ帰っていきました。
ひとり残された主人公の夏子は、静かになった部屋で浴室の鏡に映る自分の裸を見つめます。
「どこから来てどこへ行くのかわからぬこれは、わたしを入れたままわたしに見られて」いる、と。
この夏子の視点を通して、物語は単なる母娘の葛藤だけでなく、女性という身体を持って生きるすべての人の存在そのものを問いかけるように、静かに幕を閉じます。
明確な答えや解決が示されるわけではありません。
しかし感情を激しくぶつけ合ったことで、母と娘が互いの痛みを深く理解し、関係が修復に向かう希望を感じさせる、強烈な余韻の残る結末となっています。
あらすじから深掘る『乳と卵』のテーマと評価

『乳と卵』は、単なるあらすじだけでは語り尽くせない魅力を持つ作品です。ここでは次の構成にて、作品を貫くテーマや読者の感想、作者の背景といった多角的な視点から、その奥深さに迫ります。
- 『乳と卵』のテーマと魅力
- 読者の感想と評価のまとめ
- 作者・川上未映子と芥川賞の背景
- 『乳と卵』に関するQ&A
『乳と卵』のテーマと魅力
『乳と卵』の大きな魅力は、女性が抱える普遍的な悩みを深く掘り下げたテーマ性と、読者を引き込む独特の表現力にあります。ただのあらすじだけではわからない、この作品の奥深さを解説します。
まず物語の根幹には「女性の身体と生」というテーマが存在します。
例えば、タイトルにもなっている「乳」は豊胸手術に悩む姉の巻子が象徴し、「卵」は初潮や出産といったテーマに悩む姪の緑子が象徴しています。
このように、女性として生きる上で避けられない身体の変化や、生殖に対する複雑な感情が描かれているのです。
そしてもうひとつは、「コミュニケーションの難しさ」というテーマです。
緑子が筆談でしか話さないことや、巻子が本音を隠していることなど、近しい家族であっても思いがすれ違うもどかしさが描かれています。

言葉にならない感情が、最終的に衝撃的な行動で表現される点も見どころのひとつです。
読者を引き込む2つの魅力
このようなテーマを際立たせているのが、川上未映子さんならではの2つの魅力でしょう。
1つはリズム感のある独特な文体です。句読点が少なく、大阪弁が多用された文章は、まるで登場人物の心の声がそのまま流れ出てくるようです。
もう1つは心をえぐるようなリアリティ。登場人物の生々しい会話や心情、そして貧しさなどが綺麗事なしに描かれており、読者に強烈な印象を与えます。
2つの要素が組み合わさることで、本作は単に奇抜なだけでなく、読者の心に深く突き刺さる物語となっています。
読者の感想と評価のまとめ

『乳と卵』は、芥川賞受賞作として高く評価される一方、その独特な作風から読者の感想は賛否両論に分かれる傾向があります。
ここでは、様々な視点からの感想や評価を公平にまとめて紹介しましょう。
肯定的な感想・評価
肯定的な感想として多く見られるのは、やはりその文体とテーマへの共感です。
「独特の文体が音楽のようで心地よく、一気に引き込まれた」
「思春期の少女の葛藤に、自分のことのように胸が痛くなった」
「女性として感じるモヤモヤを見事に言語化してくれた」
といった声が挙がっています。
クライマックスの卵のシーン特には「衝撃的だが、言葉にならない感情が伝わってきて感動した」と評価する読者が多いようです。
否定的な感想・戸惑いの声
一方で戸惑いや否定的な感想も少なくありません。その理由として、次のような意見が見受けられます。
「句読点がなくて読みにくく、内容が頭に入ってこなかった」
「生理や身体の描写が生々しくて不快に感じた」
「結局、物語として何が言いたいのか分からなかった」
このように読む人によって、まったく異なる感想を抱かせるのが『乳と卵』の大きな特徴です。
好き嫌いがはっきりと分かれる作品かもしれませんが、それだけ多くの読者の心を強く揺さぶる力を持った作品であることは間違いないでしょう。
作者・川上未映子と芥川賞の背景

『乳と卵』の作者である川上未映子さんは、小説家としてデビューする前に多彩な経歴を持つ異色の作家です。
本作は彼女にとって初の芥川賞受賞作となり、その革新的な内容で当時の文学界に大きなインパクトを与えました。
川上未映子さんは1976年に大阪府で生まれました。高校卒業後は書店員として言葉の世界に身を置きながら、夜はクラブホステスとして働くなど、若い頃から多様な社会を経験しています。
その後、歌手として音楽活動を行う傍ら、並行して始めたブログが文芸関係者の目に留まり、小説家への道を歩み始めました。
このように音楽によって培われたリズム感や、様々な職業を通して見てきた人間の生々しい姿があります。これらが彼女の独特な作風の源泉になっているのかもしれません。
賛否を呼んだ芥川賞選考
『乳と卵』は、2008年に第138回芥川賞を受賞します。しかしその選考会では、評価が真っ二つに割れました。

評価が分かれた最大の理由は、革新的な「文体」と真正面から描かれた「テーマ」にあります。
句読点を極力使わずに関西弁で語られるスタイル。そして豊胸手術や、生理といった女性の身体性を赤裸々に描いた内容。
これらに対し、選考委員の石原慎太郎氏は「不快でただ聞き苦しい」と否定的な見解を示しました。
一方で、村上龍氏や山田詠美氏といった他の委員は、この新しい表現を「ぎりぎりのところで制御された見事な文体」「滑稽にして哀切」と高く評価し、最終的に受賞が決定したのです。
このように大きな議論を巻き起こしての受賞は、本作がこれまでの文学の常識を揺るがすほどの力を持っていたことの証明といえます。
そして現在、川上さん自身が芥川賞の選考委員を務めているという事実は、彼女が日本の文学界において確固たる地位を築いたことを示しています。
『乳と卵』に関するQ&A

Q1. 『夏物語』との違いは何ですか?
『夏物語』は『乳と卵』の物語を大幅に加筆・修正し、さらにその後の主人公・夏子の人生を描いた長編小説です。
『乳と卵』は、巻子と緑子が東京を訪れた夏の3日間の出来事に焦点を当てています。
一方、『夏物語』はこの3日間のエピソードを第一部とし、その8年後の夏子を主人公とした全く新しい物語が第二部として加わっています。
そのため登場人物は同じですが、『夏物語』の方がより時間的スケールが大きく、主人公・夏子の内面や「生殖」に関するテーマが深く掘り下げられているのが特徴です。
まずは芥川賞受賞作である『乳と卵』から読むと、その違いをより楽しめるでしょう。
Q2. どんな人におすすめの小説ですか?
この作品は、以下のような方に特におすすめできます。
- 女性としての生き方や身体の変化について考えたことがある方
- 思春期の頃の、言葉にできない複雑な気持ちを思い出したい方
- 家族、特に母と娘のリアルな関係性に興味がある方
- これまでの小説とは一味違う、独特なリズムの文章を体験してみたい方
- 文学的な評価が高く、心に深く残る読書体験をしたい方
Q3. 読むのがつらくなるって本当?
はい、人によっては「つらい」あるいは「息苦しい」と感じる可能性があります。
その理由は、登場人物が抱える悩みや、女性の身体に関する描写が非常に生々しく、綺麗事なしに描かれているためです。
読者からは「読んでいて気分が悪くなった」という感想がある一方で、「そのリアリティに心を鷲掴みにされた」という声も多くあります。
軽い気持ちで楽しめる作品ではありません。しかし心を強く揺さぶられるような読書体験を求めている方には、挑戦する価値のある一冊です。
Q4. 川上未映子さんの代表作は?
『乳と卵』のほかにも、川上未映子さんには数多くの代表作があります。
『ヘヴン』
いじめをテーマに、少年少女の痛切な魂の交流を描いた作品です。
『夏物語』
前述のとおり、本作のテーマをさらに発展させた長編小説といえるでしょう。
『すべて真夜中の恋人たち』
人との関わり方を模索する女性を描いた、静謐な恋愛小説になります。
『わたくし率 イン 歯ー、または世界』
小説家としてのデビュー作で、こちらも芥川賞候補になりました。
本作が気に入った方は、これらの作品を手に取ることで、より深く川上未映子さんの世界を楽しめます。
【総括】小説『乳と卵』のあらすじと重要ポイント

川上未映子さんの芥川賞受賞作『乳と卵』のあらすじやテーマを解説しました。
本作は身体や性にまつわる女性の普遍的な葛藤を、衝撃的かつリアルに描いた物語です。最後にポイントを箇条書きでまとめます。
- 川上未映子による第138回芥川賞受賞作である
- 句読点が少なく大阪弁を多用した独特の文体が特徴
- 東京を舞台に3人の女性が過ごす夏の3日間を描いた物語
- 姉の巻子は自身の身体へのコンプレックスから豊胸手術を望む
- 姪の緑子は思春期の葛藤から母親との会話を拒絶し筆談を続ける
- 物語のクライマックスで母と娘が生卵を頭に叩きつけ感情を爆発させる
- 最終的に豊胸手術は行われず、母娘は大阪へ帰っていく
- 女性の身体(乳・卵)と「生と性」が作品の根源的なテーマ
- 近しい家族間のすれ違いやコミュニケーションの難しさを描く
- 芥川賞選考会でも意見が割れるほど賛否両論を呼んだ作品
- 作者は歌手やクラブホステスなど異色の経歴を持つ
- 長編小説『夏物語』は本作の物語を拡張した関連作品
- いじめを扱った『ヘヴン』など他にも多くの代表作がある
最後までお読みいただき、ありがとうございました。書評ライターのヨミトが執筆しました。(運営者プロフィールこちら)
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