小説『ツナグ』あらすじ|もし死者に一度だけ会えるなら?感動と結末を解説

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小説『ツナグ』あらすじ|もし死者に一度だけ会えるなら?感動と結末を解説

この記事でわかること

『使者(ツナグ)』の基本的な設定と、各章で描かれる物語の具体的な流れ

単なる感動譚ではなく、人間の嫉妬心や後悔も描く作品のテーマ性

物語が最終章でひとつに繋がる、連作短編という巧みな物語構成

小説原作と映画版の主な違いや、続編の存在といった作品世界の広がり

もし、亡くなった人にもう一度だけ会えるとしたら、あなたは誰に会いたいですか?そして、何を伝えますか?

多くの人が一度は思い描くであろう、切なる願いを物語にしたのが、辻村深月さんのベストセラー小説『ツナグ』です。

本作は、死者との再会を一度だけ叶える「使者(ツナグ)」を巡る物語。しかしそこで描かれるのは、心温まる再会だけではありません。

なかには人間の嫉妬や後悔といった、目を背けたくなるほどのリアルな感情が渦巻き、再会が必ずしも救いになるとは限らない衝撃的な結末も待っています。

本記事では小説『ツナグ』の基本的な設定から、各章の詳細なあらすじ、登場人物、映画版との違いまでを徹底的に解説します。

この記事の筆者ヨミト
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読み終える頃には、あなたもきっと「自分なら誰に会いたいか」を深く考えているはずです。

小説『ツナグ』のあらすじをネタバレなしで紹介

『ツナグ』イメージ画像
イメージ|あらすじノオト

この章では次の構成順にて、物語の核心に触れない範囲で、作品の基本的な情報や魅力についてご紹介します。

  • 小説『ツナグ』の作品概要
  • 全体あらすじ【ネタバレなし】
  • 登場人物|依頼者と“会いたい人”
  • 映画版との違いは? 小説原作ならではの魅力
  • 感想・評価のまとめ

小説『ツナグ』の作品概要

小説『ツナグ』は、直木賞作家としても知られる辻村深月さんが手掛けた、連作短編形式の長編小説です。

物語は、一生に一度だけ死者との再会を叶える「使者(ツナグ)」という不思議な存在を軸に、様々な人間模様を描いています。

多くの読者に支持される理由

本作品が多くの読者に支持される理由は、ファンタジーという設定の中にあります。そこには誰もが共感できる、リアルな感情が巧みに織り込まれている点が見られます。

第32回吉川英治文学新人賞を受賞したことや、松坂桃李さん主演で映画化されたことも、その人気を証明しているでしょう。

物語の構成と特徴

物語は5つの章で構成されており、各章が独立した話として読めるため、非常に読みやすい点が特徴です。

ただし感動的な話ばかりではありません。

なかには人間の嫉妬心や後悔といった、心の暗い部分に焦点を当てた少し重いエピソードも含まれています。そのため単なる心温まる物語を期待して読むと、少し驚くかもしれません。

この記事の筆者ヨミト
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全体を通して、人と人との繋がりや生と死について深く考えさせられる作品となっています。

全体あらすじ【ネタバレなし】

単語帳に「あらすじ」の文字が印字

本物語は、ごく普通の高校生・渋谷歩美(しぶや あゆみ)の日々を描いています。

歩美は祖母から特殊な役目を引き継ぐ見習いです。その役目とは、死者と生者を一夜だけ再会させる仲介人、「使者(ツナグ)」でした。

都市伝説のように囁かれる「ツナグ」の元には、亡くなった人へ伝えきれなかった想いを抱える人々が訪れます。

彼らは拭いきれない後悔を胸に、最後の望みを託すのです。

様々な依頼人たち

依頼人たちが会いたい相手は様々です。

例えば、心の支えだったアイドルに感謝を伝えたいOL。癌で逝った母の本当の気持ちを知りたいと願う頑固な息子。

そして事故で失った親友に、嫉妬と罪悪感という複雑な感情を抱える女子高生もいます。

歩美は、各人一人ひとりの依頼に真摯に向き合います。そして死者との交渉を経て、一夜限りの奇跡の場を設けていくのです。

再会を巡る厳しいルール

ただしその再会は決して簡単なものではありません。

生きている人も亡くなった人も、この機会を使えるのは生涯にただ一度きりです。これは絶対的なルールとして存在します。

この記事の筆者ヨミト
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さらに死者側が面会を望まなければ、再会は叶いません。

物語は、こうした切ない人間模様を描く独立した章を重ねていきます。そして次第に「ツナグ」という役目の謎や、主人公である歩美自身の過去に隠された悲しい秘密にも迫っていく構成です。

登場人物|依頼者と“会いたい人”

たくさんの人物のフィギアの画像(登場人物のイメージ)

本物語を動かすのは、死者との再会を導く「使者(ツナグ)」と、様々な想いを抱えて彼らを訪れる依頼者たちです。

まず物語の案内役として、中心にはふたりの使者がいます。

主人公の渋谷歩美(しぶや あゆみ)は、ごく普通の高校生活を送りながら、その裏で見習いとして活動する少年です。

そして彼の祖母であり、現役の使者でもある渋谷アイ子(しぶや あいこ)がいます。彼女は豊富な経験と深い洞察力で歩美を温かく、ときに厳しく導いていく存在です。

心を揺さぶる依頼者たち

このふたりを訪れるのが、各章の主役となる依頼者たちです。各人はそれぞれ、心に解けないわだかまりを抱えています。

平瀬愛美(ひらせ まなみ)

自分に自信が持てず、孤独な日々を送るOL。人生のどん底で心を救ってくれたと信じる、亡き人気アイドル・水城サヲリに一目会いたいと願います。

畠田靖彦(はただ やすひこ)

「長男」という立場に縛られ、素直になれない頑固な工務店の社長。亡き母・畠田ツルに、生前伝えられなかった想いと、自身の判断への許しを求めます。

嵐美砂(あらし みさ)

親友でありながら、強烈な嫉妬心を抱いていた女子高生。事故死した親友・御園奈津に対し、罪悪感と恐怖という、あまりにも複雑な感情を抱えて使者の元を訪れます。

土谷功一(つちや こういち)

7年間もの間、理由も告げずに行方不明になった婚約者・日向キラリを待ち続ける実直なサラリーマン。彼女が生きているという希望と、死んでいるかもしれないという恐怖の間で揺れ動いています。

このように、登場人物たちの関係性や抱える想いは実に多様です。各人の物語を通して、読者は愛や家族、友情、そして後悔といった、人間関係の様々な形に深く触れることになるでしょう。

映画版との違いは? 小説原作ならではの魅力

映画版『ツナグ』も、松坂桃李さんや樹木希林さんといった名優たちの演技が光る素晴らしい作品です。小説でしか味わえない、原作ならではの魅力も数多く存在します。

この記事の筆者ヨミト
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両者のもっとも大きな違いは、物語の構成とその効果にあるといえるでしょう。

映画では、観客を飽きさせないために複数のエピソードが同時進行します。そして一本の大きな物語として巧みに再構成されています。

一方の小説は、各章でひとりの依頼者にじっくりと焦点を当てる「連作短編」の形式です。

登場人物一人ひとりの過去や、心の揺れ動きが、映画では描ききれないほど深く、丁寧に掘り下げられています。

読者は、まるでその人物に寄り添うようにして、各人の抱える痛みや後悔を追体験できるのです。

小説ならではの仕掛けと感動

最終章「使者の心得」で、それまでの物語が主人公・歩美の視点から語り直される構成は特に圧巻です。

すべての出来事が繋がり、物語の全体像が見えた瞬間の驚きと感動は、この形式だからこそ味わえる小説ならではの醍醐味です。

原作でしか読めないエピソード

また映画版では時間の都合上、原作の第一章「アイドルの心得」のエピソードが描かれていません。この物語は歩美が使者として初めて、依頼人と向き合う重要な場面です。

歩美の戸惑いや成長の原点を知る上で欠かせない部分といえます。

この記事の筆者ヨミト
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歩美の心の軌跡をより細やかに辿りたい方には、小説を読むことを強くお勧めします。

もちろん映画は、視覚と聴覚に強く訴えかける力を持っています。しかし小説は言葉だけで、登場人物たちの心の機微をじっくりと味わわせてくれます。

どちらも優れた作品ですが、よりパーソナルな体験を求めるなら、小説原作の魅力は格別でしょう。

小説と映画版の比較分析

項目小説版 (2010年)映画版 (2012年)
形式5章からなる連作短編複数のエピソードが同時進行する再構成された物語
主人公渋谷歩美(男子高校生)渋谷歩美(男子高校生、演:松坂桃李)
収録エピソード「アイドルの心得」「長男の心得」「親友の心得」「待ち人の心得」「使者の心得」「長男の心得」「親友の心得」「待ち人の心得」「使者の心得」
省略されたエピソードなし「アイドルの心得」
物語の焦点各依頼人の内面に深く焦点を当て、歩美自身の物語は最後に明かされる。複数の依頼人の物語を織り交ぜ、歩美自身の探求をより前面に押し出す。

感想・評価のまとめ

「評価」という文字を虫眼鏡で見ている

『ツナグ』は、多くの読者から「感動で涙が止まらなかった」といった声が寄せられる、非常に評価の高い作品です。

しかしその感想の多くは、本作が単なる心温まる物語ではない、という共通の認識に基づいています。

読者がまず心を掴まれるのは、「もし一度だけ死者と会えるなら、自分は誰に会い、何を話すだろうか」という物語の根幹にある問いです。

この問いかけが読者一人ひとりを物語の当事者とします。そして自身の人生や人間関係を深く見つめ直すきっかけを与えているのです。

感動だけではない、物語の深み

またファンタジーという設定でありながら、登場人物たちが抱える感情はどこまでも生々しいものです。嫉妬や後悔、見栄といったリアルな心理描写に、強く共感したという評価が後を絶ちません。

そして独立しているように見える各章の物語が、最終章でひとつの線として繋がる構成の巧みさも、多くの称賛を集めています。

この記事の筆者ヨミト
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一方で注意点として多くの感想が指摘するのは、物語の持つ光と影のコントラストです。

女子高生の友情に潜む心の闇を描いた第三章「親友の心得」は、その衝撃的な結末から「やるせない」「読んでいて胸が苦しくなった」という声が特に多数上がっています。

このエピソードの存在が、本作を単なる「泣ける話」から、忘れがたい物語へと昇華させているのです。

これらの理由から、『ツナグ』は優しい感動を求める人だけでなく、骨太な人間ドラマを読みたい方にも強くおすすめできる作品だといえるでしょう。

小説『ツナグ』のあらすじを深掘り【ネタバレ】

『ツナグ』イメージ画像2
イメージ|あらすじノオト

続いて物語の結末に触れながら、各章の詳しいあらすじや物語の核心などについて、次の構成順にて深掘りしてお伝えします。

  • 各章のあらすじと結末を解説【ネタバレ】
  • 注目話「親友の心得」をクローズアップ
  • 『ツナグ』の印象的な言葉(名言集)
  • 本作が本当に伝えたいこと
  • 続編『ツナグ 想い人の心得』も必読!

各章のあらすじと結末を解説【ネタバレ】

ここでは各章の詳しいあらすじと、物語の核心に触れる結末を詳しく解説していきます。まだ作品を読んでいない方は、この先を読む際には十分にご注意ください。

第一章「アイドルの心得」

自分に自信が持てず、会社でも孤立しがちなOLの平瀬愛美。彼女の心の支えは、人気アイドルの水城サヲリでした。

過去に一度だけ、路上で体調を崩した際にサヲリに助けられたことがあり、それ以来、彼女の熱狂的なファンになったのです。

そのサヲリが突然亡くなり、悲しみに暮れる中で使者の噂を知った愛美は、彼女との再会を強く願います。

サヲリが再会に応じた本当の理由

しかし再会したサヲリは、愛美を助けたことを覚えていませんでした。彼女が面会を承諾した本当の理由は、愛美が送ったファンレターの中に「死にたい」という言葉を見つけたからでした。

この記事の筆者ヨミト
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サヲリは愛美に生き続けてほしくて、そのことを伝えるためだけに使者からの交渉に応じたのです。

「こっちに来てはダメだ」と力強く諭すサヲリの言葉は、強い想いが込められていました。

この一夜限りの再会を経て、愛美は絶望の淵から抜け出し、明日を生きるための確かな希望を心に灯すのでした。

第二章「長男の心得」

地方で工務店を営む畠田靖彦は、長男としての立場に固執するあまり、周囲に厳しく当たってしまう不器用な男性です。

靖彦は、亡き母・ツルと会うために使者に依頼しますが、その表向きの理由は「山の権利書が見つからない」というものでした。

しかし彼の本当の目的は、母が癌であることを本人に最後まで告知しなかった自身の判断が正しかったのか、その答えを求めることでした。

母が遺した日記の真実

再会した母は、靖彦の嘘を優しく見抜き、彼の心の奥底にある後悔や不安をすべて理解していました。そして彼の判断を責めることなく、「あんたは優しいよ」と、その労をねぎらいます。

この記事の筆者ヨミト
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母との再会で靖彦は心の重荷を下ろしますが、物語の結末にはさらなる感動が待っています。

数年後、母の日記を見つけた靖彦は、ある事実を知るのです。それは彼女が生前に一度だけ使者を使い、若くして亡くなった父に、初孫である靖彦の息子を会わせていたという内容でした。

世代を超えて愛情を繋ごうとした母の深い想いに触れ、彼は家族の絆の意味を改めて悟るのでした。

第三章「親友の心得」

女子高生の嵐美砂は、事故死した親友・御園奈津との再会を望みます。美砂は奈津に嫉妬しており、自分の悪意ある行動が事故の原因になったのではないかという罪悪感を抱えていました。

しかし再会した場で、美砂は謝罪できずに終わってしまいます。面会後、使者を通じて奈津から「道は凍ってなかったよ」という伝言を聞かされます。

奈津は美砂の行動を知っており、その上で彼女を許そうとしていたのです。その優しさを知った美砂は、謝罪する機会を永遠に失ったことを悟り、より深い後悔を背負うことになります。

※ 「親友の心得」は特に反響がある章なので、「注目章「親友の心得」をクローズアップ」の欄でさらに深掘りしてお伝えします。

第四章「待ち人の心得」

会社員の土谷功一は、7年もの間、プロポーズ直後に忽然と姿を消した婚約者・日向キラリを待ち続けていました。

友人は「騙されたんだ」と言いますが、彼はキラリの生存を信じて疑いませんでした。しかし一縷の望みをかけて使者に依頼した結果、彼女が既に亡くなっているという残酷な事実を突きつけられます。

失踪の裏にあった悲しい真実

大きなショックと恐怖を乗り越えて再会した功一は、キラリの口から驚くべき真実を聞かされます。

彼女は天涯孤独ではなく、実は熊本から家出してきた少女であり、日向キラリというのも偽名だったのです。

そして失踪したあの日、彼女は功一との結婚を報告し、過去を清算するために故郷へ向かう途中、フェリー事故に巻き込まれて亡くなっていました。

この記事の筆者ヨミト
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キラリは逃げたのではなく、功一との未来のために行動していたのです。

キラリが残した思い出の品々を見つけた功一は、7年間の苦しみがようやく愛情と確信に変わります。そして彼女の死を悼み、自身の人生を前に進める決意を固められるのでした。

第五章「使者の心得」

最終章「使者の心得」は、主人公である使者見習い・歩美の視点から、物語のすべての謎を解き明かす集大成です。

これまでの依頼を見届ける中で、歩美は自身の大きな謎であった両親の不可解な死の真相に迫ります。依頼人たちの物語に立ち会う中で、彼が自身の宿命とどう向き合うようになったかが描かれます。

両親の死の真相と歩美の決断

歩美は祖母の言葉や古い手記を手がかりに、ついに両親の死の真相へたどり着きます。

それは世間で言われるような事件ではなく、使者の道具である禁じられた「鏡」が原因の、あまりにも悲しい事故でした。

夫と亡き義父を和解させたい、という母の愛情が招いた、あまりにも切ない悲劇でした。

すべての真実を知った歩美は、ひとつの大きな決断を下します。彼は両親と会うための「生涯一度の権利」を行使しないことを選びました。

この歩美が見出した解釈は、長年罪悪感を抱えていた祖母の心をも救うことになります。

自らの手で真実にたどり着き救われた彼は、その権利を将来、自分を導いてくれた祖母に会うためにとっておくと宣言します。

こうして歩美は、過去を乗りこえて真の「使者」としての宿命を受け入れ、物語は幕を閉じます。

注目章「親友の心得」をクローズアップ

『ツナグ』イメージ画像3
イメージ|あらすじノオト

『ツナグ』に収録されている物語の中でも、多くの読者の心に強烈な印象を残し、本作を単なる感動小説以上の作品へと昇華させているのが、第三章の「親友の心得」です。

このエピソードは、再会が必ずしも救いになるとは限らないという、物語の持つ厳しくも現実的な側面を描き出しています。その読後感は感動というよりも、むしろ痛切なものに近いかもしれません。

この記事の筆者ヨミト
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物語の中心となるのは女子高生の嵐美砂と、彼女の親友であった御園奈津の複雑な関係性です。

ふたりの友情は、表面的には仲睦まじいものでした。しかしその内側には、美砂が常に優位に立つという、危ういバランスの上に成り立っていたのです。

ところが演劇部の主役オーディションで、これまで自分を立ててくれていたはずの奈津が主役の座を射止めたことで、その均衡は崩壊します。

美砂はこれを「裏切り」と感じ、奈津に対して強烈な嫉妬心を抱くようになるのです。そのどす黒い感情が、ある冬の日、ささいな悪意ある行動へと繋がってしまいました。

利己的な動機と残酷な結末

奈津が事故死した後、美砂は罪悪感と恐怖に苛まれます。彼女が使者に再会を依頼した動機は、純粋な謝罪や哀悼のためだけではありませんでした。

もし奈津が自分の仕業に気づいていたら、他の誰かにそのことを話してしまうかもしれない。

その前に自分が奈津の「一度きりの再会の権利」を使い切ってしまおうという、恐ろしく利己的な計算が含まれていたのです。

しかし再会した奈津は美砂を責めることなく、以前のように穏やかに接します。その様子から、美砂は彼女が真相を知らないのだと判断し、結局、最後まで謝罪することができませんでした。

再会の後に待っていた残酷な「伝言」

この物語が真に際立っているのは、その残酷な結末にあります。

面会後、使者を通じて伝えられた奈津からの「道は凍ってなかったよ」という一言。この短い伝言が、美砂を本当の意味での地獄へと突き落とします。

奈津は美砂の悪意に気づいていたのです。そしてそれは事故の原因ではなかった。

この事実は、美砂から「殺人者かもしれない」という恐怖を奪うと同時に、「謝罪し、赦される」機会をも永遠に奪い去りました。

美砂に残されたのは、親友の優しさを踏みにじり、最後の対話の機会を自ら無駄にしたという、決して消えることのない後悔でした。

このエピソードの持つ人間心理の深さとやるせなさは、映画版で嵐美砂を演じた橋本愛さんの鬼気迫る演技と相まって、数ある物語の中でも特に強烈なインパクトを放っています。

『ツナグ』の印象的な言葉(名言集)

「語録」と印字された本の表紙

『ツナグ』の物語が持つ力は、その設定や展開だけではありません。登場人物たちが紡ぐ、鋭く、時に温かい言葉が、読者の心に深く突き刺さります。

ここでは物語の世界観やテーマを象徴する、特に印象的な言葉をその背景と共に紹介します。

「世の中が不公平なんて当たり前だよ。みんなに平等に不公平」

第一章で人気アイドル・水城サヲリが、人生に絶望する依頼人にかけた言葉です。

一見すると冷たい突き放すような台詞ですが、これは華やかな世界の裏で厳しい現実を生き抜いてきた彼女なりのエールと言えます。

誰もが同じように不公平なのだから嘆くのではなく、その中でどう生きるかが重要だという力強いメッセージが込められています。

「人間ってのは、身近なものの死しか感じることも悲しむこともできないんだよ」

こちらも水城サヲリの台詞で、自身の死が世間で大きく報じられていることに対する冷静な分析です。

多くの人に惜しまれる著名人の死であっても、それは一時的な娯楽としての悲しみに過ぎない、と彼女は語ります。

個人的な喪失感と、社会的な関心事との間にある埋めがたい溝を的確に表現した一文です。

「死んだ後の世界のことは、自分が死ぬまで楽しみに取っときなさい」

第二章で、亡き母・畠田ツルが息子にかけた言葉です。

死後の世界について尋ねる息子に対し、その答えを優しくいなしています。

これは、未知なるものを詮索するよりも、今目の前にある「生」を全うすることの大切さを示唆する、母親ならではの温かい知恵でしょう。

「悔いがない、生き方してね」

第三章「親友の心得」で、亡くなった御園奈津が残した言葉です。

この台詞は物語の文脈を知ると、非常に重く響きます。

深い後悔を抱える親友に向けて放たれたこの願いは、優しさであると同時に、取り返しのつかない過去を突きつける残酷な響きも持っています。

「会って、必要なことを伝えなかったせいで、一生、そのことを引きずらなきゃならなくなった人もいる」

使者である歩美が、依頼人を諭す場面での言葉です。

これは彼が「親友の心得」での悲劇を目の当たりにしたことで得た、重い実感のこもった教訓と言えます。

単なる傍観者だった歩美が、使者としての責任の重さを自覚し始めた、成長の証でもある台詞です。

「死者は、残された生者のためにいるのだ」

最終章にて語られる、この物語の核心を貫く一文です。

死者との再会は、生きている人間のエゴかもしれないという葛藤の末にたどり着いた答えが、この言葉に集約されています。

亡くなった人の存在や記憶が、残された人々の支えとなり、未来へ進むための力になるという、作品全体のテーマを象徴しています。

本作が本当に伝えたいこと

「POINT」と書かれたホワイトボートを両手で持っている

『ツナグ』が物語を通じて読者に投げかけるのは、単に「死者と再会できたら良いのに」という幻想的な願望の肯定だけではないでしょう。

むしろ、この作品は「ツナグ」という架空の存在を通して、残された人々が「死」という避けられない現実とどう向き合うべきかという、普遍的で深い問いを探求しています。

物語の真のテーマは、死者との再会そのものではなく、その経験を通じて生者が何を見つけ、どう変わっていくのかという点にあるのです。

この記事の筆者ヨミト
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作中で描かれる再会は、必ずしも万能の解決策として機能するわけではありません。

例えば、失踪した婚約者の真実を知り、ようやく心の整理をつけて新たな一歩を踏み出す男性がいる。

一方で、親友との再会によって、かえって生涯消えることのない後悔を背負うことになった女子高生もいます。

この対照的な結末は、死者との再会という奇跡が、生きている人間の心の在り方次第で、救いにもなれば、より深い苦しみにもなり得ることを示唆しています。

つまり重要なのは、再会という出来事そのものではなく、それによって自分の心と向き合い、人生を引き受ける覚悟を持てるかどうかだといえるでしょう。

今を生きることの重要性

この倫理的な問いは、主人公である使者・歩美の葛藤としても描かれます。

歩美は死者を呼び出す行為が、残された者の自己満足、つまり「生者のエゴ」に過ぎないのではないかと悩みます。しかし様々な依頼に立ち会う中で、彼はその考えを改めていくことになります。

この記事の筆者ヨミト
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死者の記憶は、残された人々の中で生き続け、時に道しるべとなり、時に生きる支えとなるのです。

最終章で示される「死者は、残された生者のためにいるのだ」という一文は、この物語がたどり着いた核心といえます。

亡き人の存在は、決して過去に留まるのではなく、生きる者の心の中で新たな意味を持ち、未来へと繋がっていくのです。

『ツナグ』がいない現実を生きる私たちへ

だからこそ本物語は私たち読者に、今この瞬間を大切に生きることの重要性を強く訴えかけます

私たちの現実には、「ツナグ」という便利な仲介者は存在しません。感謝の言葉も、謝罪の気持ちも、愛情も、相手が生きているうちに伝えなければ、永遠に届かない可能性があります。

本作品は、一度きりの再会という極限の状況を描くことで、私たちが日常の中で持つべき繋がりへの意識を浮き彫りにします。

後悔しないために、大切な人との対話を先延ばしにしないこと。それこそが、『ツナグ』が本当に伝えたい、切実なメッセージではないでしょうか。

続編『ツナグ 想い人の心得』も必読

開いた本と「go to next stage」の文字

『ツナグ』を読んで心を揺さぶられた方には、9年ぶりに刊行された続編『ツナグ 想い人の心得』もぜひ読んでいただきたいです。

この物語を読むことで、『ツナグ』の世界をさらに深く味わうことができます。

続編の舞台は、前作から7年後。主人公の渋谷歩美は社会人として働きながら、使者の役目を続けています。

この記事の筆者ヨミト
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高校生だった彼が大人へと成長し、より複雑な依頼や新たな葛藤に直面する姿が描かれます。

例えば、歴史上の人物に会いたいと願う元教員など、前作にはなかったユニークな再会の形が登場する点も見どころです。

前作の読者の中には、読後感の重いエピソードに心を痛めた方もいたかもしれません。しかしこの続編では、時間の経過が人の悲しみとの向き合い方をどう変えていくかが繊細に描かれています。

そして前作で抱いた感情を、より深く消化する手助けをしてくれるでしょう。歩美の成長した姿を通して、物語のテーマである「繋がり」がより多角的に描かれる、まさしく必読の一冊です。

小説『ツナグ』のあらすじとポイントまとめ

黒板に「まとめ」の文字

『ツナグ』は死者との再会という奇跡を通して、私たちに残された時間の尊さと、伝えるべき言葉の重みを教えてくれる物語です。

読み終えた後、きっとあなたは一番大切な人の顔を思い浮かべ、その繋がりを改めて大切にしたいと感じるでしょう。

それでは最後にポイントを箇条書きでまとめます。

  • 辻村深月による連作短編形式のベストセラー長編小説
  • 死者と一度だけ再会を叶える「使者(ツナグ)」を巡る物語
  • 主人公は使者の役目を引き継ぐ見習いの高校生・渋谷歩美
  • 様々な事情を抱えた依頼人たちの人間模様が描かれる
  • 再会には「生涯一度きり」など厳しいルールが存在する
  • 単なる感動譚ではなく、人間の嫉妬や後悔といった心の闇も描く
  • ファン心理を超えた生へのメッセージを描く「アイドルの心得」
  • 世代を超える親子の繋がりが明らかになる「長男の心得」
  • 再会が救いではなく深い後悔に繋がる衝撃的な「親友の心得」
  • 7年間待ち続けた婚約者の死と真実に向き合う「待ち人の心得」
  • 主人公自身の過去と使者の宿命が明かされる最終章「使者の心得」
  • 物語の核心は「死者は残された生者のためにいる」というテーマ
  • 小説と映画では物語の構成が大きく異なる
  • 映画版では原作の第一章「アイドルの心得」が省略されている
  • 続編として7年後を描いた『ツナグ 想い人の心得』も刊行済み

最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。この記事が、あなたの読書体験のきっかけとなれば幸いです。

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