
この記事のポイント
- 物語の舞台と基本設定がどのように構築されているか理解できる
- 主要登場人物の関係性やストーリーの流れがわかる
- 作品の持つメッセージとして、言葉の価値や社会の寛容性がどう描かれているか把握できる
- 物語の結末とその解釈を通じて、作品が提示する問いやテーマを考察できる
『東京都同情塔』は、第170回芥川賞を受賞した九段理江の話題作です。
本作は2026年から2030年の東京を舞台に、主要登場人物である建築家・牧名沙羅が、革新的な刑務所「シンパシータワートーキョー」の設計を通じて社会の価値観と向き合う物語です。
ここでは『東京都同情塔』の物語の舞台と基本設定をはじめ、登場人物や作品の持つメッセージについて詳しく解説。また物語の結末とその解釈や、AIの言葉が社会に与える影響といったテーマについても掘り下げます。
一方で、本作は読者によって評価が分かれる作品です。「難しい・つまらない」との評価の真相についても考察し、本作がどのような視点で読まれているのかをご紹介。
さらに芥川賞選評に見る本作の評価を通じて、文学的価値や意義についても触れていきます。
最後に書籍情報と読書のポイントをまとめ、本作をより深く楽しむための視点を提供します。

『東京都同情塔』の魅力やテーマを知りたい方に向けて、詳しく解説するのでご期待ください。
※ 本記事は多くのネタバレが含まれますので、ご注意ください。
東京都同情塔 あらすじと物語のポイント

この章では、次の順に『東京都同情塔』の世界を詳しく紐解いていきます。
- 物語の舞台と基本設定
- 主要登場人物とストーリーの流れ
- 作品の持つメッセージとは?
- 九段理江の作風と過去作品との比較
- 芥川賞選評に見る本作の評価
物語の舞台と基本設定
『東京都同情塔』の舞台は、2026年から2030年にかけての東京です。ただしこの東京は私たちが知る現実のものとは異なり、いくつかの重要な改変が加えられています。
特に象徴的なのは、ザハ・ハディドが設計した新国立競技場が実際に建設された世界であることです。
現実では計画が白紙撤回されたザハ案ですが、本作では堂々と完成し、その存在が物語に大きな影響を与えているのです。

また新宿御苑には、「シンパシータワートーキョー」という革新的な刑務所が建てられています。
この施設の特徴は、犯罪者を「ホモ・ミゼラビリス(同情されるべき人々)」と定義し、彼らが快適に暮らせる環境を提供することにあります。
「ホモ・ミゼラビリス」と新しい刑務所の形
従来の刑務所とは異なり、罰を与えるのではなく、社会の一部として受け入れるという理念が背景にあるのです。
このような設定のなかで、建築家の牧名沙羅(まきな さら)は、この新しい刑務所の設計を担当することになります。

沙羅は自身の信念と社会の価値観との間で葛藤しながら、建築を通じて社会と向き合うことになるのです。
本作の世界観は現実に存在する東京をベースにしながらも、一部の歴史や価値観が改変された「もうひとつの日本」として描かれています。
そのため読者は、身近な風景のなかに違和感を覚えつつも、作品が提示するテーマについて考えさせられる構成となっています。
主要登場人物とストーリーの流れ

物語の中心となるのは37歳の女性建築家・牧名沙羅です。沙羅は優秀な建築家として成功しているものの、社会が求める「寛容」という価値観に違和感を抱えています。
特に「犯罪者を同情すべき存在として扱う」、という考え方には賛同しきれず、シンパシータワートーキョーの設計に関わるなかで葛藤を深めていきます。
もうひとりの重要人物が22歳の青年・東上拓人(とうじょう たくと)です。拓人は美しい容姿を持ち、老舗ブランドの販売員として働いています。
物語のなかで拓人は沙羅と交流を深め、社会に対する独自の価値観を持つ人物として描かれます。拓人の存在が、沙羅の思考に影響を与える重要な要素となっているのです。
建築家の苦悩|沙羅の抱く疑問
物語は沙羅が、シンパシータワートーキョーの設計に携わるところから始まります。
建築家としての使命感を持ちながらも、沙羅は「この建物は本当に必要なのか」「犯罪者に与える環境として適切なのか」といった疑問を抱き続けるのです。
AIと言葉に支配される社会
その一方で、SNSやメディアが発信する「軽い言葉」の影響を強く受け、AIの言葉に支配されていく社会の姿を目の当たりにします。
終盤に向かうにつれて沙羅の内面の葛藤はより強まり、拓人との対話を通じて、彼女なりの答えを模索していくことになるのです。
シンパシータワートーキョーの存在意義、建築家としての信念、そして「言葉の重み」とは何か。それらの問いが交錯しながら、作品は結末へと向かいます。
作品の持つメッセージとは?
本作は単なる近未来SFではなく、「言葉の価値」と「社会の寛容性」を問う文学作品です。特に「軽い言葉」の氾濫が社会をどう変えていくのか、というテーマが重要なポイントとなっています。
AIが紡ぐ言葉の虚無
物語のなかでAIは人間のように流暢な言葉を生み出しますが、それらは過去のデータを組み合わせただけのものです。そのため感情や経験から紡ぎ出される、人間の言葉とは異なり本質的な重みを持ちません。
しかし現代社会では、そのような「軽い言葉」が拡散され、人々の価値観に影響を与えているのが現実です。本作では、その問題を未来の東京を通して描き出しています。

また「寛容の暴走」についても考えさせられる内容になっています。
本作の舞台では、犯罪者は「ホモ・ミゼラビリス(同情されるべき人々)」と再定義され、社会が彼らに対して極端な優しさを示すのです。
しかしそれは本当に正しいのか? 人道的な扱いと社会の秩序はどのようにバランスを取るべきなのか? という問いが投げかけられています。
建築が映し出す社会の姿
もうひとつのテーマは「建築の持つ意味」です。建築は単なる物理的な空間ではなく、社会の価値観や意識を反映するものです。
シンパシータワートーキョーは、まさにその象徴として存在しており、沙羅が感じる違和感は建築を通じた社会への疑問でもあります。
こうしたテーマを通じて、『東京都同情塔』は、読者に「言葉」「社会の寛容性」「テクノロジーとの向き合い方」について深く考えさせる作品となっています。
作者、九段理江の作風と過去作品との比較

作者の九段理江氏は、社会の変化やテクノロジーの進化に伴う人間の価値観の揺らぎを描く作家です。
九段の作風には、鋭い社会批評と知的なユーモアが織り交ぜられており、シリアスなテーマを扱いながらも読者に深い思索を促します。
また作中で言葉の使い方にこだわる傾向があり、特にAIやデジタル社会に対する考察が多く見られるのも特徴です。
『東京都同情塔』では生成AIが生み出す「軽い言葉」と、人間の持つ「言葉の重み」の対比が中心テーマとなっています。
主人公が社会の新たな価値観に違和感を覚えつつも、それを受け入れなければならない状況に直面する点は、九段死の作風をよく表しています。
一貫するテーマと新たな挑戦
過去作品と比較すると、九段理江はデビュー作から一貫して言葉や社会の変化に対する、洞察を深めてきました。
例えば、短編『しをかくうま』では、言葉の選び方ひとつで人間関係が変わる様子が描かれており、言葉の持つ力に対する関心が強く感じられます。
また『School girl』では、現代の若者の価値観を鋭く描写し、情報過多の社会で生きる人々の心理を巧みに表現。
これらの作品と比べると、『東京都同情塔』はよりスケールが大きく、未来社会を舞台にしたSF的要素を含んでいる点で異なります。
しかし共通しているのは、読者に「この社会は本当にこれでいいのか?」という問いを投げかける姿勢です。

九段氏の作風は現実に即したリアルな問題を、独自の視点で小説という形に落とし込む点にあります。
芥川賞選評に見る本作の評価
第170回芥川賞を受賞しました。言葉で対話することを諦めたくないすべての人々へ、「東京都同情塔」を捧げます。ありがとうございました。(大所帯での楽しい待ち会の一部始終も、とある形で公開予定です!お楽しみに。) https://t.co/FEgj77amIg pic.twitter.com/whc6JYlES3
— 九段理江 Rie QUDAN (@qudanrie) January 18, 2024
『東京都同情塔』は第170回芥川賞を受賞し、選考委員から高い評価を受けました。特に注目されたのは、生成AIを活用した執筆手法と、それをテーマの一部として取り入れた構成です。
生成AI活用への高評価
選考委員のなかには「小説の可能性を広げた」と評価する声がある一方で、「AIの活用が新しさだけに依存しているわけではなく、作品全体の完成度が高い」と指摘する意見もありました。
具体的には、平野啓一郎氏は『東京都同情塔』を「三島由紀夫の『金閣寺』を現代的に更新した作品」と評し、架空の建築物が物語の中で果たす役割に注目しました。
また松浦寿輝氏は「現代社会への鋭い批評性と、AIの言語が持つ不気味さを見事に表現した作品」と評価。作中に登場するシンパシータワートーキョーが現実世界の言語空間を映し出している点に言及しました。
選考委員からの批判的な意見
一方で否定的な意見も見られます。島田雅彦氏は「物語としてのアクションが足りない」と述べ、社会的なテーマを扱っているものの、小説としてのダイナミズムが不足していると指摘しました。
また堀江敏幸氏は「建築家の視点をもう少し掘り下げるべきだった」と述べ、主人公の内面描写にやや物足りなさを感じたようです。
総評|挑戦的作品としての評価と議論
全体として、本作は「現代文学としての挑戦的な試み」として評価され、特に言葉の持つ力や社会の価値観の変化を巧みに描いた点が高く評価されました。
一方で物語の展開の単調さや、読者に考えさせる余白が多すぎる点については賛否が分かれました。しかし芥川賞の受賞を通じて、本作が今後の文学に与える影響は大きいと考えられます。
東京都同情塔 あらすじと深掘り考察

この章では次のことを取り上げて、『東京都同情塔』を多角的に深掘りしていきます。
- 物語の結末とその解釈
- 読者が感じた本作の魅力とは?
- 「難しい・つまらない」との評価の真相
- AIと文学の関係性をどう捉えるか?
- 書籍情報と読書のポイント
物語の結末とその解釈
『東京都同情塔』の結末は、物語のテーマを象徴するような静かな終わり方を迎えます。主人公の牧名沙羅はシンパシータワートーキョーの設計を通じて、言葉が持つ力と社会の価値観の変化を目の当たりにします。
最終的に沙羅は、「同情されるべき人々」として収容される犯罪者たちの生活を受け入れざるを得なくなりますが、その選択に対して完全には納得していません。
物語のクライマックスでは、沙羅が自身の信念と社会の流れの間で葛藤する姿が描かれます。シンパシータワートーキョーは完成し、犯罪者たちは新たな環境のなかで生活を送ることになるのです。
しかし沙羅の心には、「本当にこれが正しいのか?」という疑問が残り続けます。

読者にとっても、この問いは作品を通して繰り返し投げかけられるものです。
開かれた結末|読者に委ねられる判断
この結末は現代社会における「寛容のあり方」や「言葉の軽さ」がどこに向かうのかを暗示しているとも解釈できます。
作中ではAIによって生み出された言葉が人々の価値観を左右し、犯罪者に対する扱いさえも変えてしまう社会が描かれています。この状況は、現在のSNSやメディア環境に対する批判とも読めるでしょう。
また物語の最後に示されるのは、「言葉によって生まれる境界線」です。寛容を求めるあまり社会は言葉を曖昧にし、犯罪者と一般市民の間の境界をなくしてしまいます。
しかしそれが本当に正しいのかは明言されません。あえて読者に判断を委ねることで、本作は単なるフィクションではなく現実の社会問題への問いかけとして機能しています。
考えさせる結末|AI時代の文学の役割
このように『東京都同情塔』の結末は、明確な答えを提示するのではなく、読者自身に考えさせる構成になっています。
そのため「納得できる結末だった」と感じる人もいれば、「釈然としないまま終わった」と思う人もいるでしょう。
しかしそれこそが本作の狙いであり、AI時代の言葉のあり方や社会の価値観の変化について、考えさせる文学作品としての意義を持っています。
読者が感じた本作の魅力とは?

『東京都同情塔』は、多くの読者に強い印象を与えた作品です。特に評価されているのは現代社会とリンクするテーマ性、言葉に対する深い洞察と独特の文体です。それぞれについて詳しく見ていきます。
現代社会を映すテーマ性
まず本作のテーマ性が読者を引きつけています。舞台は2026年以降の東京ですが、描かれる問題は現代の社会にも直結しているのです。
SNSの発展により言葉が軽く扱われるようになったこと、AIが生み出す情報の氾濫、人々の価値観の変化といった点が鋭く描かれています。
これらの要素は読者に、「自分たちの未来もこうなるのではないか?」という危機感を抱かせる要因になっています。

本作が持つ言葉への鋭い視点も評価されています。
作中では、犯罪者を「ホモ・ミゼラビリス(同情されるべき人々)」と呼び、刑務所は「シンパシータワートーキョー」と名付けられているのです。
この言い換えによって、社会の価値観が変化していく様子が描かれます。
作品世界を構築する独特の文体
さらに独特の文体も本作の特徴のひとつです。AIによる発話部分は機械的な表現が採用され、それ以外の文章も一定の冷静さを保っています。
このスタイルが作品のテーマと見事に一致しており、読者に知的な刺激を与えます。また比喩表現やユーモアも織り交ぜられており、知的な読書体験を求める人にとっては大きな魅力です。
このように『東京都同情塔』は、現実社会とリンクするテーマ性や言葉の力に対する洞察、独特の文体によって多くの読者を惹きつけています。

単なるエンターテインメント作品ではなく、読者に深い思索を促す点が本作の魅力だといえるでしょう。
「難しい・つまらない」との評価の真相
一方で本作に対して、「難しい」「つまらない」と感じる読者も少なくありません。その評価の背景には次のことが関係しています。
- 物語の抽象性
- 言葉の扱いの特殊さ
- ストーリーの展開が地味
個別に内容を見ていきましょう。
思想的対話が中心
まず多くの読者が指摘するのが物語の抽象性です。
本作は特定の出来事を中心に物語が進行するのではなく、社会の変化や登場人物の思想的な対話がメインになっています。
そのため物語のなかで、明確な起承転結を求める読者にとっては「どこに注目すればいいのかわからない」と感じやすく、読みづらさを覚える要因になっているのです。
カタカナ語や造語の多用
また本作では、言葉に対する深いこだわりがあるため、カタカナ語や難解な用語が多く使用されています。
特に「ホモ・ミゼラビリス」や「シンパシータワートーキョー」などの造語は、背景知識がないと理解が難しいと感じる読者もいるでしょう。
さらに比喩や言葉遊びが多用されるため、一文一文の意味を深く考えながら読まなければならず、軽い読書を求める人にとっては負担に感じることもあります。
アクションやドラマを求める人には不向き
そしてストーリーの展開がゆるやかである点も、「つまらない」と感じる要因になっています。
本作は主人公が、社会の価値観に疑問を抱きながら思索を深めていく流れになっており、派手なアクションやドラマティックな事件はほとんど起こりません。
そのためエンタメ要素を求める読者にとっては、退屈に感じられる部分があるかもしれません。
- 挑戦的作品ゆえの評価
- しかしこれらの「難しい」「つまらない」という評価は、本作が挑戦的な作品であるがゆえに生まれたものともいえます。
文学としての深みや社会批評的な視点を楽しめる読者にとっては、むしろその点が魅力になります。
したがって、読む人の好みによって評価が分かれる作品だといえるでしょう。
AIと文学の関係性をどう捉えるか?
近年、生成AIの進化により、文学のあり方が大きく変わりつつあります。特に『東京都同情塔』は、AIと人間の共創による新たな文学の可能性を示した作品として注目されているのです。

本作では実際にAIが執筆の一部に関わっており、その活用方法が作品のテーマにも直結しています。
AIと文学の関係について考える際、大きく分けて、「AIが創作を補助する役割」と「AIが生み出す言葉の質」のふたつの視点があるでしょう。
まずAIは作家の補助ツールとして機能することが増えています。例えば、アイデアの発想やプロット作り、文章のチェックといった面で活用されるケースが増えているのです。
『東京都同情塔』の作者である九段理江氏も、AIを執筆のサポートとして使用したことを公言しています。
AIは文学に何をもたらすか?
AIは大量のデータを処理し、言葉の組み合わせを提案できるため、作家に新たな発想を促すツールとして有用です。
一方でAIの言葉は、「軽さ」と「深みの欠如」が指摘されることもあります。AIが生成する文章は、過去のデータを基に統計的な処理を行ったものであり、人間が持つ経験や感情に根ざした表現とは異なります。
そのため、AIによる創作がどこまで「文学」として認められるかは、議論が続いているテーマのひとつです。
本作でも「AIが生み出す軽い言葉」と、「人間が紡ぎ出す重い言葉」の違いが重要なテーマとして扱われています。
このように、AIと文学の関係性は単なる技術的な問題ではなく、「言葉の価値とは何か?」という本質的な問いにつながっています。
今後AIがさらに進化することで、文学がどのように変化していくのかは、作家や読者にとっても大きな関心事となるでしょう。
書籍情報と読書のポイント

お伝えしたとおり、『東京都同情塔』は九段理江氏による小説で、第170回芥川賞を受賞した作品です。
本作はAIを活用した執筆手法が話題となり、文学界に新たな波をもたらしました。以下に、書籍の基本情報をまとめます。
書籍情報
- タイトル:東京都同情塔
- 著者:九段理江
- 出版社:新潮社
- 発刊年:2024年
- ページ数:143ページ
- ISBN:9784103555117
読書のポイント
本作は言葉の本質や、社会の変化に対する鋭い洞察が含まれているため、単なるフィクションとして読むのではなく、現代社会との関連を意識しながら読むことが重要です。
以下のポイントを押さえると、より深く楽しめるでしょう。
言葉の使われ方に注目する
物語のなかでは、「ホモ・ミゼラビリス(同情されるべき人々)」や「シンパシータワートーキョー」など、意図的に作られた言葉が多く登場します。
これらの言葉がどのように社会の価値観を変えていくのかを考えながら読むことで、作品のテーマがより明確に見えてきます。
AIと人間の関係性を意識する
物語のなかでAIは単なるツールではなく、社会の一部として影響を及ぼす存在として描かれています。
主人公とAIの対話がどのように展開し、AIの言葉がどのような役割を果たしているのかを意識すると、より深い読解が可能です。
社会の「寛容性」に対する問いかけ
本作では犯罪者をどのように扱うべきか、というテーマも描かれています。現代の「寛容」のあり方と比較しながら読むことで、作品の持つ社会批評的な側面をより理解しやすくなるでしょう。
比喩や構造を丁寧に読み解く
文体や構成が独特なため、一度読んだだけでは意味がつかみにくい部分もあります。
特に建築物(新国立競技場とシンパシータワートーキョー)の対比は、作品全体の象徴として機能しているため、その意味を考えながら読み進めるとよいでしょう。
- 深く味わう問題作
- 本作は決して軽い読み物ではありませんが、AI時代の言葉のあり方や社会の変容について考えさせられる作品です。
初めて読む方は、一度全体を通読し、その後、気になった部分を振り返るとより深く理解できるでしょう。
『東京都同情塔 あらすじ』の要点まとめ

九段理江氏の芥川賞受賞作『東京都同情塔』は、AIと共存する近未来を舞台に、「言葉の価値」と「社会の寛容性」を問う問題作。
ザハ案の新国立競技場や、犯罪者を「ホモ・ミゼラビリス」と呼ぶ刑務所など、斬新な設定と巧みな比喩で現代社会の歪みを鋭く描き出し、読後も深い思索を促します。
最後に要点を箇条書きでまとめます。
- 舞台は2026年から2030年の東京で、現実とは異なる改変が加えられている
- ザハ・ハディド設計の新国立競技場が建設された世界として描かれている
- 新宿御苑に革新的な刑務所「シンパシータワートーキョー」が存在する
- 収容者を「ホモ・ミゼラビリス」と定義し、罰ではなく社会統合を目的とする
- 主人公は37歳の建築家・牧名沙羅で、刑務所設計を通じて葛藤する
- 22歳の青年・東上拓人が登場し、沙羅の思考に影響を与える
- AIの言葉の氾濫や「寛容の暴走」が物語の中心テーマとなる
- 社会の価値観と個人の信念の対立を描き、読者に問いを投げかける
- 九段理江の過去作品と比較し、よりスケールの大きなテーマを扱っている
- 芥川賞選考では「小説の可能性を広げた」と評価される一方で賛否も分かれた
- 言葉の使い方や社会批評的な視点が評価されるが、難解さを指摘する声もある
- AI時代の文学のあり方や、言葉の価値を考えさせる作品となっている
それでは最後まで見ていただき、ありがとうございました。
参考情報
新潮社『東京都同情塔』特設ページ